先日、年商2億円ほどの製造業の社長から、こんな質問を受けました。

「事業承継って、引退するときに考えればいいんじゃないですか?税理士に『今すぐ動いてください』と言われたんですが、正直ピンと来なくて」

この感覚、すごく自然だと思います。でもこれが、相続税を2倍にしてしまう落とし穴なのです。

会社が順調なほど、相続税の請求書が大きくなる

非上場の中小企業でも、自社株には「評価額」があります。純資産の大きさや直近の収益力をもとに算出される数字で、会社の業績が上がれば上がるほど、この評価額も連動して増えていく仕組みです。

たとえば今の自社株評価が1億円だとしましょう。業績好調のまま10年放置した場合、評価額が2億円を超えることは珍しくありません。相続税は評価額に対してかかりますから、対策ゼロのまま放置すれば税負担が倍近くになる可能性があります。

「うちは儲かっているから大丈夫」と考えていた社長が、相続のタイミングで数千万円単位の追加負担に直面する——これが事業承継の落とし穴です。会社の成功が、そのまま相続税の増加につながる構造になっているのです。

納税を猶予してくれる「特例措置」がある

実はいま、事業承継に使える強力な税制優遇が存在します。「事業承継税制の特例措置」と呼ばれるもので、後継者に自社株を移転する際にかかる相続税や贈与税の納税を猶予してもらえる制度です。

要件を満たせば、株式移転にかかる税負担を大幅に圧縮できます。うまく活用すれば、億単位の納税を将来に先送り——場合によっては事実上の免除——にすることも可能です。

ただし、この特例措置には締め切りがあります。2027年12月31日までに一定の計画を提出していることが条件です。残り約1年半。「まだ余裕がある」と思っているなら、少し楽観的かもしれません。

なぜ「今すぐ」動かないと間に合わないのか

事業承継の準備が急がれる理由は、手続きに想像以上の時間がかかるからです。おおまかな流れはこうなっています。

  • 経営承継計画の策定:後継者を決め、移転する株式数・時期を計画書にまとめる
  • 都道府県への認定申請:計画書を提出し、認定を受ける
  • 実際の株式移転:贈与や相続のかたちで株式を後継者へ渡す

この一連の流れに、最短でも1〜2年はかかります。税理士や専門家との相談、書類の準備、都道府県の審査期間——これを積み上げると、「今すぐ動いてもギリギリ」というのが正直なところです。

2027年末から逆算すると、遅くとも2026年中には動き始めていないと、特例措置に間に合わないケースも出てきます。来年まで待つ余裕は、もうほとんどないと考えておいた方がいいでしょう。

「うちには関係ない」と思っている社長へ

事業承継税制というと「大企業や資産家の話」と感じる方もいます。でも実際には、年商1〜5億円クラスの中小企業の社長こそ、このリスクにさらされやすいのです。

大企業は顧問弁護士や税理士が常に対策を考えていますが、中小企業の社長は日々の経営に追われて「事業承継は後で」になりがちです。そして気づいた頃には自社株の評価額が上がりきっていて、手を打てなかった——というケースが後を絶ちません。

後継者候補はいるけれど、具体的な話はまだ何もしていない。そんな状況なら、まずは顧問税理士に「事業承継税制の特例について聞きたい」と一言伝えるだけで十分です。今すぐすべてを決める必要はありません。ただ、動き始めるタイミングだけは早い方がいい。

2027年末まで、カレンダーのページは確実に減っています。まだ間に合う今のうちに、最初の一歩を踏み出してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。