先日、資産管理会社を持つ社長からこんな相談を受けました。
「会社名義でビルを買ってるんだけど、相続のことって考えておいた方がいいですよね?」
はい、ぜひ早めに動いてほしいのですが、実はこの「法人不動産×相続」の組み合わせに、見落とされがちな大きな落とし穴があります。今日はその中身をしっかりお伝えします。
個人と法人、相続での扱いはまったく違う
個人で不動産を所有している場合、相続のときに「小規模宅地等の特例」という強力な制度が使えます。条件を満たせば、土地の評価額を最大80%も圧縮できる制度です。
評価額1億円の土地なら2000万円まで下げて相続税を計算できる。これは個人オーナーにとって、非常に大きなアドバンテージです。
ところが、法人名義の不動産にはこの特例が原則として使えません。ここが、後で出てくる「5000万円の罠」の根っこにある話です。
子が相続するのは「不動産」ではなく「株式」
法人名義の不動産を持つ社長が亡くなったとき、子どもが相続するのは不動産そのものではありません。相続するのは「会社の株式」です。
これが非常に重要なポイントです。
不動産を保有する会社の株式は、当然その不動産の価値を反映して評価されます。たとえば2億円の物件を法人が持っていて、ローン残高が1億円だったとします。純資産ベースで考えれば約1億円の株式評価になり、そこに相続税がかかってきます。
「ローンが残っているから税金も安くなるはず」と思いがちですが、控除できる部分はあくまで法人の負債分だけ。個人所有であれば使えたはずの特例が使えない分、想像以上に重い税負担になることがあるのです。
相続税とローン返済が重なると5000万円を超える
ここからが本番です。
会社の株式を相続した子が新社長になれば、その会社のローン返済義務も実質的に引き継ぎます。法人の借入は法人の債務として残り続けるからです。子ども自身が個人でローンを組んだわけではないとしても、会社の経営者として毎月の返済を回していかなければならない。
仮に相続税で1500〜2000万円のキャッシュが必要になり、さらに1億円のローン返済が続くとすれば、数年スパンで見たとき合計5000万円を超える負担になるケースは決して珍しくありません。
相続税を払い、会社としてローンを返す。この二重の重荷を、子に背負わせることになってしまうわけです。
「法人で不動産を持てば節税になる」は半分だけ正しい
法人で不動産を取得することで、減価償却費を経費にしやすかったり、法人税の節税に活用できたりする面があるのは事実です。それは否定しません。
ただ、「今の節税」だけ見て「将来の相続」を見落としているケースが非常に多い。顧問税理士がいても、相続専門でなければ法人不動産の出口戦略まで踏み込んで提案してくれないことがあります。社長自身が意識を持って「この不動産を最終的にどう処理するか」を考えておく必要があります。
生前にできる主な対策
法人不動産の相続対策として現実的な選択肢を挙げると、大きく3つあります。
- 生前に法人から個人または子へ売却しておく:不動産を個人名義に移すことで、特例適用の道が開ける
- 株式の生前贈与を進める:相続財産を少しずつ減らしながら後継者へ渡していく
- 法人の解散・清算で個人資産に組み替える:長期的な視点で法人の持ち方を見直す
どの方法も、共通して言えることが一つあります。「元気なうちに動き始めること」が前提です。相続が発生してからでは、選べる手段が一気に狭まります。
特に生前売却は、会社から子への取引になるため、適正な売買価格の設定が命綱です。低すぎれば「みなし贈与」として追徴課税のリスクがありますし、高すぎれば子の資金手当てが問題になる。税理士と綿密に設計する必要があります。
法人不動産を持つ社長へ、一言
法人で不動産を保有すること自体は、間違った選択ではありません。ただ、出口戦略なき法人不動産は、後継者への重い贈り物になりかねない。知っているかどうかで、負担が数千万円単位で変わる世界です。
まだ具体的な対策を動かしていないなら、今期中に一度、相続に詳しい税理士に現状を診てもらうことを強くおすすめします。「まだ元気だから」と後回しにするほど、選べる手段は減っていきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。