先日、ある経営者からこんな相談を受けました。
「最近、会社の業績がよくなって自社株の評価が上がってきたんですが、それって相続のときに何か問題になりますか?」
その方は40代後半、年商10億規模の製造業の社長です。会社の調子がよくて喜んでいたのですが、私はその言葉を聞いて少し心配になりました。
自社株が1億円増えると、相続税は2倍以上に跳ね上がる
単刀直入に言います。自社株評価が1億円増えると、相続税は単純に「1億円分だけ増える」のではなく、2倍以上に膨らむ可能性があります。
具体的な数字で見てみましょう。遺産総額が2億円のとき、相続税はおよそ3,340万円です。ところが、自社株評価が1億円上がって遺産総額が3億円になると、相続税は6,920万円に急増します。
増えた財産は1億円なのに、税額の増加は約3,580万円——ほぼ2倍超です。「なんで?」と思われる方も多いはずです。
カラクリは「累進課税」にある
相続税は、財産が多ければ多いほど高い税率が適用される「累進課税」の仕組みになっています。相続税の最高税率は55%。これが自社株オーナーにとっての最大の落とし穴です。
2億円台と3億円台では、適用される税率区分が違います。財産が増えた分だけでなく、すでにある財産にも「より高い税率」がかかってくる部分が広がる。これが税額を一気に押し上げる理由です。
自社株の場合、これが特に危険です。会社の業績が上がれば自社株評価も上がります。つまり、成長すればするほど、将来の相続税負担がどんどん重くなる——いわば「頑張るほど損をする」構造になっているんです。
しかも不動産や預貯金と違って、自社株評価は業績次第で一気に跳ね上がることがある。「気づいたときには手遅れ」という事態が、実際に起きています。
2027年12月末までの「切り札」がある
この問題に対する打ち手として、「事業承継税制の特例措置」があります。
後継者に自社株を引き継ぐ際に、相続税・贈与税の納税を猶予できる制度です。一定の条件を満たせば、最終的に税が免除されるケースもあります。うまく活用できれば、自社株評価がどれだけ高くても、相続税の負担をゼロに近づけることが可能です。
ただし、この特例措置には申請期限があります。2027年12月末が現行の締め切りです。期限までに「特例承継計画」を都道府県知事に提出しておく必要があります。
書類の準備には一定の時間がかかります。税理士や弁護士との連携も必要です。「来年から考えよう」では間に合わなくなるケースが現実に出てきています。
業績好調な今こそ、動くタイミングです
「まだ後継者問題を考える段階じゃない」という社長も多いです。ですが、相続税の対策は最低でも3〜5年かけて行うのが基本。動き始めたときには手遅れ——というのは、決して珍しい話ではありません。
特に、ここ数年で業績が上向いてきた会社は要注意です。自社株評価が知らないうちに跳ね上がっている可能性があります。
まずは顧問税理士に「うちの自社株、今いくらで評価されていますか?」と一言聞いてみてください。その数字を知ることが、対策の出発点になります。2027年の特例期限まで、残り時間はそれほど長くありません。まだ動いていないなら、今期中に相談のアポを入れることを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。