先日、関東在住の経営者仲間からこんな話を聞きました。「知り合いの社長が、息子に株を贈与したら2億円の請求が来たらしい」——最初は冗談かと思いましたが、残念ながらそれは実際に起きた話です。
62歳の社長に届いた「2億円の請求書」
埼玉県で印刷会社を30年以上経営してきた山田社長(62歳)は、そろそろ息子への事業承継を本格的に考え始めていました。自社株の評価額は約4億円。「どうせ将来渡すものだし」と、あまり深く考えずに贈与手続きを進めたのです。
ところが数ヶ月後に届いた通知を見て、山田社長は青ざめました。贈与税の請求額、2億円。
会社の現預金でそれだけの額を準備できるはずもなく、結局は会社名義で銀行から借り入れて納税することになりました。本来なら設備の刷新や人材採用に回せたはずのお金が、税金の支払いに丸ごと消えていったのです。
なぜこんなことが起きるのか
贈与税は、もらった財産の額が大きいほど税率が高くなる累進課税の仕組みです。数億円規模の財産を一度に贈与すると、税率は最高55%に達します。4億円の株式なら、2億円前後の贈与税請求が来ることは、計算上ありえることなのです。
多くの社長が見落としがちなのが、このスケール感です。会社の株式は評価額が億単位になることも珍しくありません。「息子に渡すだけだから税金はそんなにかからないだろう」という感覚が、大きな落とし穴になります。
「事業承継税制の特例措置」を使えば回避できた
山田社長のケースで最も惜しかったのは、「事業承継税制の特例措置」という制度の存在を知らなかったことです。
この制度は、後継者に自社株を贈与・相続する際の贈与税・相続税を、最大100%猶予できるものです。「猶予」とは文字どおり先送りで、後継者が一定の要件——代表者として経営を続ける、株式を保有し続けるなど——を満たしている限り、実質的にその税金は免除に近い状態が続きます。
制度を正しく活用していれば、山田社長が払った2億円は、そもそも発生しなかった可能性が高いのです。
期限は2027年12月末——今すぐ動くべき理由
この特例措置には、絶対に外せない申請期限があります。2027年12月31日までに所定の書類を提出することが条件です。この期限を逃すと、制度を使う権利そのものが失われます。
準備には「特例承継計画」という書類の作成が必要で、税理士や金融機関などの「認定支援機関」と一緒に策定し、都道府県へ事前提出しなければなりません。申請直前に慌てて動いても間に合わないケースも多く、今から準備を始めることが重要です。
2027年末まであと1年半。逆算すると、実質的に動き出せるタイミングは2026〜2027年のうちしかありません。
まず自社株の評価額を確認することから
「うちはまだ先の話」と思っている社長ほど、準備が遅れます。しかし、自社株の評価額は思っているより高いことが多く、放置すると山田社長のような事態を招きかねません。
まずは事業承継に詳しい税理士に相談し、現状の自社株評価がどの程度になるかを確認しておきましょう。そこで初めて「どんな対策が必要か」の全体像が見えてきます。2億円の後悔は、動き始めるのが遅すぎたことから生まれました。まだ間に合ううちに、一歩を踏み出してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。