先日、税理士仲間からこんな話を聞きました。「愛知の製造業の社長が急に倒れて、会社がえらいことになってる」と。

詳しく聞くと、遺言書が1枚もなかったそうです。その結果、5000万円の相続税請求と、3人の息子たちの骨肉の争いが一気に始まりました。

相続税だけじゃない、本当の恐怖

山田社長(仮名)は62歳で突然亡くなりました。年商3億円、従業員30名の堅実な製造業で、業績は悪くありませんでした。でも、遺言書はゼロ。

残されたのは3人の息子です。長男は会社の役員、次男・三男はそれぞれ別の仕事についていました。自社株はほぼ均等に3分の1ずつ。

最初にもめたのは「会社をどうするか」でした。

長男は「自分が継ぐ」と主張しましたが、株式の3分の1を持つ次男が「俺は会社に貢献してきていない。売却して現金で分けたい」と言い出しました。三男も次男寄りで、長男は孤立。遺産分割協議が始まりましたが、半年経っても合意できませんでした。

銀行融資が止まった

さらに深刻だったのが、資金繰りです。会社の借入れの連帯保証人が山田社長個人だったため、融資更新のタイミングで銀行から「相続が確定してから」と言われてしまいました。

3兄弟が揉めている間、新たな運転資金が借りられない状態が半年以上続いたのです。製造業で資金繰りが滞ると、仕入れにも影響が出ます。相続税の問題どころか、会社そのものが傾きかけました。

遺言書1枚で防げた崩壊

法的に有効な遺言書が1枚あれば、多くの問題は最初から起きませんでした。対策として有効なのは主に2つです。

① 自社株の承継先を指定する遺言書 「自社株は長男○○に相続させる」と明記するだけで、株式の分散を防げます。他の財産(預金・不動産)で次男・三男にも配慮すれば、感情的な対立も大きく軽減できます。

② 事業承継税制(相続税の納税猶予)の活用 事前に計画していれば、後継者が取得した自社株にかかる相続税の大部分を猶予・免除できる制度があります。山田家の5000万円の相続税も、この制度を活用すれば大幅に圧縮できた可能性があります。ただし、生前に都道府県知事への申請など、かなり早い段階からの準備が必要です。亡くなってからでは使えません。

「うちは仲のいい家族だから大丈夫」が一番危ない

こういう話をすると「うちの子どもたちは仲がいいので」と言われる社長が必ずいます。でも山田社長のご家族も、もともと仲が悪かったわけではありません。

お金が絡むと、人は変わります。特に「何億円もの会社の株式」という、普通の感覚では想像できない財産が目の前に現れたとき、人の心は揺れます。

仲のいい家族だからこそ、遺言書で「社長の意志」を残しておく必要があるのです。


自社株の承継計画は、社長が元気なうちにしか動けません。まだ事業承継について専門家と話したことがないなら、今期中に一度、税理士や行政書士に相談することを強くおすすめします。相続が発生してからでは、打てる手が激減します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。