先日、ある製造業の社長から「税理士に相続の話をされたんですが、正直ピンとこなくて」と相談を受けました。

会社の評価額を一緒に確認してみると、自社株だけで約3億円。長年かけて築いた会社を息子に引き継いでもらうつもりでいましたが、「相続税がいくらになるか」は、あまり考えたことがなかったそうです。

概算を出してみたら、最大で1億円を超える数字が出てきました。社長は少し青ざめた顔をして「現金でそんなに用意できないよ」とつぶやきました。

自社株が「現金より怖い」理由

会社の株式は、相続財産として評価されます。純資産や収益力をもとに計算されるため、業績がよい会社ほど、株の評価額が高くなります。

問題は、自社株は簡単に換金できないという点です。相続が発生しても、その株をすぐに売って現金化するわけにはいきません。それでも相続税は「現金で」払わなければならない。この矛盾が、事業承継における最大の落とし穴です。

そして相続税の申告・納付期限は、死亡翌日から10ヶ月以内。猶予はほとんどありません。

知っている社長だけが使える「特例措置」

ここで登場するのが、事業承継税制の特例措置です。

シンプルに言えば「後継者が会社を引き継いで経営を続けるなら、自社株にかかる相続税の納付を猶予しますよ」という制度です。要件を満たし続けることで、猶予税額は実質的に免除されることもあります。

自社株3億円なら、本来1億円超かかる相続税が、この制度を活用することで大幅に圧縮できる可能性があります。

「一般措置」と「特例措置」はどう違うのか

事業承継税制には2種類あります。2018年に導入された特例措置は、従来の一般措置よりも大幅に使いやすくなっています。

一般措置では、猶予対象が発行済株式の3分の2まで。つまり残りの3分の1には通常どおり相続税がかかります。

一方、特例措置では対象株式が全株式です。さらに雇用継続の要件も緩和されており、中小企業が使いやすいように設計された、いわば「強化版」です。自社株の評価額が大きい会社ほど、この差は金額として大きく響いてきます。

2027年末という、動かせない期限

ただし、この特例措置には明確な期限があります。

特例措置の適用を受けるには、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。これは制度利用の申込みのようなもので、この提出なしには特例措置は一切使えません。

今が2026年5月とすると、準備に使える時間は実質1年半程度です。「来年考えよう」では、本当に間に合わなくなります。

なぜ「準備に数年かかる」と言われるのか

この制度、書類を出すだけなら一見シンプルに見えます。でも実際に使いこなすには、いくつかの前準備が必要です。

まず、後継者を明確に決める必要があります。誰が引き継ぐか曖昧なままでは、計画が立てられません。次に、自社株の評価額を正確に把握して、猶予税額の試算を行います。そして計画提出後も、後継者は代表者として経営を継続する義務があり、5年間は毎年報告書を提出するなどの継続要件が課されます。

書類作成・提出・税務申告・事後管理まで含めると、専門家なしには動きにくい制度でもあります。早めに税理士と連携して準備を進めることが不可欠です。

「まだ先の話」が一番危ない

会社の後継者問題は、「自分が元気なうちは考えなくていい」と思いがちです。でも相続は予告なく発生します。急に準備を始めても、法定期限には追いつかないことがほとんどです。

特に特例措置は、2027年末というリミットが法律で定められています。相続が発生したのがそれ以降であっても、計画提出が間に合っていなければ適用外です。

もし自社株の評価額が大きいと感じているなら、まず顧問税理士に「うちの株はいくらになるか」を試算してもらうところから始めてみてください。数字を見てから動いても決して遅くはありませんが、2027年末は本当に目前に迫っています。今期中に一度、事業承継の話し合いをテーブルに乗せることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。