先日、愛知県で製造業を営むあるオーナー社長と話していたとき、こんな一言が出てきました。
「65歳で退職したとき、手元に3億円が残ったんですよ。しかも税金はほとんどかからなかった」——。
最初は冗談かと思いました。でも詳しく聞いていくと、これは運が良かったわけでも、特別なコネがあったわけでもなく、15年間コツコツと積み上げてきた「法人保険×退職金設計」の結果だったんです。
50歳のとき、顧問税理士に言われた一言
田中社長(仮名)が動き出したのは、ちょうど50歳のとき。きっかけは顧問税理士からのひと言でした。
「田中社長、そろそろ退職金の準備を始めましょう。50代前半に動かないと、同じ設計はもう再現できなくなります」——。
はじめは「まだ先の話だろう」と半信半疑だったそうです。でも試算を見せられたとき、その数字のインパクトに思わず身を乗り出したと話していました。
年800万円の保険料が、15年後に3億2千万円になって戻ってきた
設計の核心はシンプルです。
法人として年間800万円の保険料を払い続け、解約のタイミングをコントロールする。65歳で退職するタイミングに合わせて保険を解約すると、解約返戻金として約3億2千万円が法人口座に入金される。
ここで「法人に3億円超の利益が出る」と思うかもしれませんが、ここが設計の肝です。解約返戻金が入ってきた年に、田中社長への退職金として3億円を法人が支払う。退職金は損金に計上できるため、3億2千万円の利益と3億円の損金がほぼ相殺される。法人側の税負担は最小限に抑えられるわけです。
退職所得控除という「もうひとつのギフト」
一方、退職金を受け取った田中社長の個人側はどうなるか。ここで登場するのが「退職所得控除」です。
勤続年数が長いほど控除額は大きくなります。20年超の場合は「70万円×(勤続年数-20年)+800万円」という計算式が適用されます。田中社長の場合、社長就任からの年数が40年を超えていたため、控除額は相当な規模になりました。
通常の役員報酬として受け取れば最高55%の税率がかかるところを、退職所得として受け取ることではるかに低い税負担で済んだ。法人側と個人側、両方で税負担を抑える——これが「法人保険×退職金設計」の真骨頂です。
なぜ「50歳スタート」が絶対条件なのか
田中社長のケースで最も重要なのは、50歳というタイミングで動き出したことです。
65歳退職を目指すなら、逆算すると積立期間は15年。この15年という期間が、解約返戻率が最大になるゾーンに乗るための条件になっていることが多い。55歳から始めれば積立期間は10年に縮まり、同じ設計を使っても総額も戻り率も変わってきます。
さらに言えば、保険加入には健康状態の引受審査があります。体が元気なうちに動くことも、実は重要な要素のひとつ。「60代になってから考えよう」という判断が、選べる設計の幅を大きく狭めることになります。
注意しておきたいポイント
この設計にはいくつか前提があります。
まず、法人の収益が安定していること。年800万円を15年間払い続けるためには、会社のキャッシュフローが安定していなければなりません。また、法人保険の損金算入ルールは2019年の国税庁通達改正で大きく変わった経緯があります。今後の制度変更リスクもゼロではないため、定期的に顧問税理士とシミュレーションを見直すことが欠かせません。
もうひとつ、退職金額が「不相当に高額」とみなされると損金算入が否認されるリスクもあります。最終報酬月額や勤続年数をもとにした「功績倍率法」で適正額を判断してもらうことが、税務調査対策としても重要です。
まず「試算してもらう」ことから始める
「うちは中小企業だから関係ない話だろう」と思うかもしれません。でも法人保険を使った退職金設計は、年商数億円規模の中小企業オーナーでも有効な手法です。
大事なのは規模より「タイミング」。今いくつで、いつ退職したいか。その前提を整理した上で顧問税理士に相談するだけで、田中社長と同じような設計が見えてくるかもしれません。
もし50代で退職金の準備がまだなら、今期中に一度シミュレーションを依頼してみることをおすすめします。「あのとき動いておけばよかった」では遅すぎる——それがこの設計の、唯一にして最大の落とし穴です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。