先日、資産3億円超の不動産を保有する製造業の社長からこんな相談を受けました。
「顧問の先生に『法人で不動産を買えば自社株の評価が下がって相続税が楽になる』と聞いて、先月1棟マンションを購入したんです。でも最近、別の税理士から『それ、3年以内に相続が発生したらアウトかもしれない』と言われて……」
その社長、まだ60代前半です。でも父親が病気で入院中で、そちらの相続が数年以内に起きるかもしれない状況でした。
なぜ「法人で不動産を買う」節税が裏目に出るのか
法人に不動産を持たせると、帳簿上の資産価値が上がるため自社株の評価が下がる、というのは基本的には正しい理解です。不動産は路線価や固定資産税評価額で計算されるため、時価より低く評価されることが多い。その差を活用するのが、この節税スキームの肝です。
ところが、ここに大きな落とし穴があります。
財産評価基本通達185という規定があり、会社が「課税時期前3年以内に取得した不動産」については、路線価ではなく時価で評価すると定められているのです。
時価3億円の物件を買って路線価1億円で評価できると思っていたのに、相続発生が3年以内に来てしまうと3億円で評価される。節税効果がゼロになるどころか、場合によっては購入前より評価額が上がってしまう、という逆転現象が起きます。
実際に2億円の追加課税が発生したケース
これは絵空事ではなく、実際に起きている話です。
時価3億円の収益不動産を法人に購入させた会社オーナーが、取得から2年後に急逝されたケース。路線価ベースなら1億円程度だったはずの評価額が、3年ルールにより3億円での評価になりました。差額2億円に対して相続税がかかり、節税どころか多額の追加課税が発生してしまいました。
本人も経営者として先を見据えて行動していたのに、この「3年」というルールを知らなかっただけで、家族に大きな負担を残してしまったわけです。
3年ルールを回避するための2つの対策
対策はシンプルです。ただし、どちらも「早めに動く」ことが絶対条件になります。
① 3年以上前から計画して実行する
相続が発生するタイミングは誰にもわかりませんが、親御さんの年齢や健康状態を踏まえて、「少なくとも3〜5年先を見越して購入する」という逆算の発想が必要です。購入してから相続まで3年を超えていれば、路線価評価が適用されます。思い立った瞬間に動くのではなく、「承継のタイムライン」から逆算して不動産取得のスケジュールを組む。これが基本です。
② 取得価格と相続税評価額の乖離幅を事前に確認する
仮に3年ルールをクリアできたとしても、取得価格と路線価評価額の差が小さければ節税効果は限定的です。物件によっては「頑張って取得したのにほとんど評価が下がらなかった」というケースもあります。購入前に税理士に具体的な試算を出してもらい、節税効果と諸コストのバランスを確認することが不可欠です。
「節税になる」という言葉を疑う習慣を
不動産を使った節税スキームは、確かに有効な場面があります。ただ、どんな節税策にも「条件」と「タイミング」があります。
「法人で不動産を買えば節税になる」という言葉を聞いたとき、すぐに動くのではなく、「それはどんな条件のもとで成立するのか」「自分の状況に当てはめるとどうなるか」を一歩立ち止まって考えてみてください。
特に相続税対策は、一度タイミングを誤ると取り返しがつきません。相続が発生してしまった後から「あのとき3年待てばよかった」と言っても、覆すことはできないのです。
法人への不動産購入を検討しているなら、今すぐ税理士に「3年ルールの観点からリスクはあるか」と確認することをおすすめします。その一言が、億単位の課税を防ぐことになるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。