先日、ある経営者の息子さんから相談を受けました。
「父が急に亡くなって、税務署から5億円超の納税通知書が届いたんです。会社を畳むしかないんでしょうか」
お父様は創業25年、地元では名の知れた製造業の社長さんでした。65歳という年齢で突然倒れ、準備らしい準備は何もできないままでした。
株価が上がるほど、相続税も増える
多くの経営者が見落としているのが、非上場株式の評価のしくみです。
上場していない会社の株式は、市場価格がありません。そこで税務署は「純資産価額方式」という計算式を使います。ざっくり言うと、会社が持っている資産から負債を引いた純資産をもとに株価を計算する方法です。
会社が成長して資産が増えれば増えるほど、株価が上がります。株価が上がれば上がるほど、相続が起きたときの税額も膨らんでいく。これが、頑張れば頑張るほど相続税が重くなるという、創業オーナーにとって残酷な構造です。
冒頭の息子さんのケースでは、会社の純資産が10億円を超えていました。持株比率がほぼ100%だったため、株式の相続税評価額もそのまま10億円規模になり、税額が5.1億円という数字が出てきたわけです。
後継者が会社を手放すまでの流れ
相続税の納付期限は、原則として相続開始から10ヶ月以内です。現金で払えるならまだ救いがありますが、5億円もの現金を個人で持っている後継者はほとんどいません。
延納(分割払い)という制度はありますが、担保が必要で利子もかかります。物納(会社株式で納税)は非上場株式だと手続きが複雑で、税務署に受け付けてもらえないケースも多い。
結果として、「会社ごと売るしかない」という選択を迫られる経営者の家族が、実際に存在します。創業者が一生をかけて育てた会社が、本人が亡くなった瞬間に他人の手に渡っていく。そういうことが、今この瞬間も起きているのです。
今からでも間に合う3つの対策
悲観的な話が続きましたが、対策は確実にあります。ポイントは「動き始めるのが早いほど効果が大きい」ということです。
1. 暦年贈与で少しずつ移す
毎年110万円までなら、贈与税なしで財産を後継者へ移せます(暦年課税)。株式を少しずつ後継者へ贈与していくことで、相続発生時のオーナー保有分を減らすことができます。10年続ければ1,100万円分の株式を非課税で渡せる計算です。ただし2024年以降は贈与した財産の加算期間が延長されているため、早期に着手するほど効果が高くなります。
2. 従業員持株会を設立する
従業員持株会に株式を保有させることで、オーナー以外の保有比率を増やせます。評価方式も変わるため、株価そのものを圧縮できるケースがあります。従業員の福利厚生にもなり、優秀な人材の定着にも効果的という副次的なメリットもあります。
3. 種類株式(黄金株・無議決権株)を活用する
議決権のない株式(無議決権株式)を後継者に渡すことで、経営権を手元に残しながら株式の評価額を分散できます。議決権を持つ「黄金株」をオーナーが持ち続ければ、後継者に株を渡した後も重要な経営判断に関与できます。
「まだ元気だから」が最大のリスク
冒頭の経営者は65歳でした。「まだ若い」と思っていたかもしれません。実際、会社が好調だったころに相続対策の相談をしてくれる社長は少数派です。多くの方が「もう少し落ち着いたら」「来期になったら」と先送りにします。
でも相続はいつ起きるかわかりません。株価が高いうちに相続が発生すれば、後継者の選択肢は著しく狭まります。「動ける今」のうちに動き始めることが、家族と会社を守る唯一の方法です。
自社株の評価がどれくらいになるかを知るだけでも、危機感の質が変わります。まずは顧問税理士に「うちの株価、今いくらで評価されますか?」と一言聞いてみてください。その数字を見たとき、何をすべきかが見えてくるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。