先日、九州の建設業の社長からこんな相談を受けました。「遺言書もちゃんと書いた。不動産を息子に残せば老後は安心だと思っていたのに、なぜか息子が青ざめているんです」と。
話を聞いてみると、相続後に届いた書類が「3,000万円超の相続税の納付書」だったそうです。遺言書があっても、税金は待ってくれません。
不動産2億円でも「現金がない」問題
不動産は路線価(公示地価のおおよそ80%)で評価されます。時価2億円の土地と建物なら、相続税評価額は1億6,000万円前後になることが多い。それでも、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えれば課税対象になります。
問題は、不動産そのものは手元に残るのに、税金は現金で払わなければならないことです。
息子さんは、古い建物を売って納税しようとしました。ところが、築年数が古く、立地も地方の住宅街。買い手がつかず、売れたとしても希望額には遠く及ばない。不動産は「資産」と呼ばれますが、現金化できなければ納税には使えないのです。
評価額を下げるだけでは足りない
「路線価で評価されるから、現金より有利」と思っている方は多いです。確かに2割程度の評価減にはなります。でも、たとえば課税遺産が1億5,000万円であれば、税率は最大50%近い水準まで上がります。評価が下がっても、税額がゼロになるわけではありません。
しかも相続税には「10ヶ月以内」という納付期限があります。売れない不動産を抱えながら、10ヶ月以内に数千万円を現金で用意しなければならない。これが、不動産相続の本当の重さです。
対策は「評価を下げる」「現金を準備する」「特例を使う」の3本柱
①法人移転で評価を圧縮する
個人で持っている不動産を会社(法人)に移すと、評価の仕組みが変わります。会社の株式評価には複数の計算方式があり、うまく設計すれば不動産を直接持つより評価額を大きく下げられる場合があります。ただし、移転時に譲渡所得税がかかることもあるため、事前のシミュレーションは必須です。
②生命保険で納税資金を確保する
生命保険の死亡保険金には「500万円×法定相続人数」の非課税枠があります。3,000万円の税負担があるなら、保険金で手当てする設計が現実的です。保険料の支払いも会社が負担できる仕組みにすれば、個人の手残りに影響しません。現金が手元にない問題の、もっともシンプルな解決策です。
③小規模宅地等の特例を活用する
自宅の土地(居住用)は、一定の条件を満たせば330㎡まで評価額が80%減額されます。2億円の土地でも、特例が使えれば評価額が4,000万円まで下がるケースがあります。ただし「誰が相続するか」「相続前後の同居状況」「土地の用途」などで適用可否が変わるため、細かい要件確認が欠かせません。
遺言書を書いて安心してはいけない
遺言書は、誰に何を渡すかを決めるものです。でも「渡した後に税金が払えるか」は別の問題。この2つを同時に設計していないと、善意で残した財産が子どもへの重荷になってしまいます。
特に不動産を多く持つ社長は、「今の評価額でいくらの税金がかかるか」「その税金を払える現金がどこにあるか」を、今すぐ確認することをお勧めします。対策に使える手段は多いですが、どれも「元気なうちに動く」ことが前提です。
相続が発生してからでは、打てる手が一気に減ります。まだ対策を整えていないなら、今期中に一度、相続専門の税理士と現状を棚卸しすることが、最大の節税になるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。