先日、製造業を20年経営してきた60代の社長から、こんな話を聞かせてもらいました。

息子への事業承継を決意し、顧問税理士に「自社株を渡すといくら税金がかかるか」を試算してもらった。返ってきた数字を見て、思わず声が出なかったと言います。

贈与税だけで、約2億7千万円。

自社株の評価額は5億円。半分以上が税金で消える計算です。「会社を守ってきた20年間は何だったんだろう」と、しばらく呆然としていたそうです。

贈与税の計算は、想像よりずっと厳しい

株式を子どもに生前贈与する場合、その評価額に対して贈与税が課されます。基礎控除は年110万円ですが、5億円規模になると焼け石に水です。超過累進課税の仕組みで、大きな金額ほど税率は上がり、最高55%にも達します。

問題は、贈与税は「現金で」納める必要があることです。株式を渡す側には税金を払うための現金が必要ですが、会社を経営してきた社長の資産の多くは、まさにその自社株に集中しています。

売れない株を渡すために、どこからか2億7千万円を用意しなければならない。そう気づいたとき、承継の話が暗礁に乗り上げるのです。

知らなかった「特例措置」の存在

このA社長が最終的に救われたのは、「事業承継税制の特例措置」という制度の存在を知ったことでした。

この制度をひとことで言えば、「後継者が株式を受け継ぐ際の贈与税・相続税を、事業を継続している限り猶予してもらえる」仕組みです。一定の要件を満たし続けることで、猶予された税額が将来的に免除されるケースもあります。

つまり、5億円の株を渡しながら、実質的な税負担をゼロに近づけることも、条件次第では可能なのです。A社長は「なぜ最初から教えてもらえなかったのか」と悔しそうに話していましたが、事業承継の税制は複雑で、相続専門でない税理士には盲点になりやすい分野でもあります。

使えるかどうかは、いくつかの条件次第

ただし、誰でも無条件に使える制度ではありません。大きなポイントをいくつか押さえておきましょう。

まず、申請期限があります。特例承継計画の提出期限は2026年3月末まで。この期限を過ぎると通常の税率が適用され、特例のメリットは受けられなくなります。

次に、後継者の要件があります。代表者に就任し、議決権の過半数を保有するなど、条件を満たす必要があります。形だけの承継では認められません。

さらに見落とされやすいのが、資産保有型会社の除外です。不動産や有価証券の割合が高い会社は、たとえ製造業であっても「資産保有型」と判定されることがあります。遊休地や持ち合い株が多い場合は要注意です。

承継後も5年間の事業継続・雇用維持などの条件があり、要件を外れると猶予が取り消されます。「使えた」で終わりではなく、使い続けるための管理が求められる制度です。

早く動くほど選択肢が広がる

事業承継でよく聞く後悔が「もっと早く始めておけばよかった」です。特例措置のように申請期限のある制度は、時間が経つほど選択肢が狭まります。

また、自社株の評価額は会社の業績とともに上がり続けます。評価額が高くなるほど贈与・相続の負担も重くなるため、早い段階から計画的に評価額をコントロールすることも大切な視点です。

「まだ60代だから先の話」と思っている社長ほど、一度試算を出してもらうと驚く数字が出てくることが多いです。相談するだけなら、まだ間に合います。今期中に、事業承継に強い税理士に声をかけてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。