先日、年商7億ほどの建設業を営む社長からこんな連絡が来ました。「そろそろ相続税の対策でも考えようかと思って。2026年から何か変わったって聞いたんだけど」。

その言葉を聞いた瞬間、正直少し胸が痛くなりました。「気づいてくれた。でも、もう少し早ければ……」という気持ちです。

2026年は、確かに相続税・贈与税まわりの改正が本格的に効いてくる年です。ただ、「今年から始めよう」では、すでに取り返せない機会損失が生まれています。今回はその実態を、3つの切り口でお話しします。

「毎年110万円の贈与」がこっそり変わっていた

まず最初に知ってほしいのが、暦年贈与(年間110万円の基礎控除を使った贈与)の話です。

2024年1月以降、相続が発生したときに「過去の贈与を相続財産に加算して計算する期間」が、それまでの3年から7年に延長されました。

つまり、今から贈与を始めても、亡くなるまでの7年間に行った贈与はすべて相続財産として計算し直されます。相続税の節税効果が実際に出るのは、贈与を始めてから7年以上経ってから、ということです。

「毎年100万円ずつ渡して、10年で1,000万円移そう」という計画を立てていた社長には、これがかなり痛い改正です。2020年ごろに贈与を始めた人なら効果が出始めていますが、今から始めた人が効果を実感できるのは2033年以降の話になります。

事業承継税制には「タイムリミット」がある

次に、自社株の相続税対策について。

事業承継税制の特例措置を使えば、自社株にかかる相続税・贈与税の最大100%を猶予できます。これは本当に強力な制度で、株価が数億円の会社なら、猶予される税額が数千万円にのぼることも珍しくありません。

ただし、この特例措置の適用申請には2027年12月31日という期限があります。そしてここが肝心なのですが、制度の適用には「特例承継計画」の策定から始まり、後継者の選定・会社の整備・税務申告と、準備に最低でも1〜2年かかります。

今から動いても2027年末には辛うじて間に合うかもしれません。ただ、2026年末まで静観していた社長は、実質的に選択肢が消えると思ってください。「まだ後継者が決まっていない」「自社株の評価額を計算したことがない」という方は、今すぐ動く必要があります。

役員退職金は「5〜10年」かけて設計するもの

3つ目が役員退職金です。

社長が引退するときに支払われる役員退職金は、個人の所得税的にも法人の損金算入的にも、非常に優遇された制度です。適切に設計すれば、個人と法人の両方の税負担を大幅に下げることができます。

退職金の金額は「最終報酬月額 × 在職年数 × 功績倍率」で計算されます。この式のポイントは、最終報酬月額と在職年数の両方が大きいほど、退職金も大きくなるということです。

「退職の数年前に報酬を大幅に上げる」「在職年数を積み上げる」という戦略は、短期間では成立しません。急激な報酬変更は税務上も問題になりやすく、会社の利益計画と連動した長期設計が必要です。70歳での引退を考えているなら、60代前半には設計を始めるのが理想です。

節税に共通する「時間というリソース」

3つの対策に共通しているのは、「時間が最大のリソース」だということです。

暦年贈与は7年間の積み上げが必要。事業承継税制は申請期限が迫っている。役員退職金は報酬設計の年数が必要。どれも「急いでやる」ことができません。

「いつかやろう」が「来年からやろう」になり、「2026年になったら動こう」になった社長が、今まさにその代償を払い始めています。節税には「今すぐ始めれば間に合う」ものと「もう選択肢が消えた」ものが混在しています。

まずは税理士に「うちの場合、何がまだ間に合いますか?」と聞いてみてください。その一言が、数千万円の差になることがあります。何もしないまま時間だけが過ぎていく、それが一番高くつく選択です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。