先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「相続税の試算をしてもらったら、自社株だけで2億を超えていました。子どもに引き継ぐつもりなのに、これじゃ税金で会社が潰れそうです」

年商10億の製造業、社員30名の優良企業。業績が良ければ良いほど自社株の評価は上がり、相続・事業承継の壁も高くなる。これは多くの中小企業オーナーが直面するジレンマです。

では、どうすれば評価を下げられるのか。今回は合法的に自社株評価を圧縮する3つの手法を、効果の高い順にご紹介します。

3位:配当を見直すだけで評価額は動く

非上場株式の評価には「類似業種比準価額方式」という計算方式がよく使われます。この方式は「配当」「利益」「純資産」という3つの要素で評価額を決める仕組みです。

配当を抑えるだけで、このうちの一要素が圧縮されるため、評価額に直接影響が出ます。「会社の利益は出ているのに、あえて配当を少なくする」というのは一見もったいなく見えますが、承継の観点からは合理的な選択です。

完全にゼロにする必要はありません。現行の配当水準を少し見直すだけで、数パーセントの圧縮効果が出るケースもある。まずは「うちはいくら配当を出しているか」を確認するところから始めてみてください。

2位:現金を不動産に換えると、純資産が圧縮される

会社に現預金が積み上がっている場合、それをそのまま持ち続けると自社株評価に直撃します。現金は1円が1円として評価されるからです。

一方、不動産に換えると話が変わります。土地は「路線価」で評価され、これは時価の約80%程度。建物は「固定資産税評価額」が使われるため、時価よりさらに低くなるケースが多い。つまり2,000万円の現金を使って2,000万円の不動産を買うと、帳簿上の資産は2,000万円でも、税務上の評価は1,400万円前後に圧縮されることがあります。

ただし「節税のために買う不動産」ではなく、「事業や賃貸として実際に活用する不動産」であることが前提です。実態のない形式的な移転は否認リスクがありますので、その点だけはご注意ください。

1位:役員退職金で利益をゼロにする

3つの中で最も効果が大きいのが、役員退職金の活用です。

類似業種比準価額の計算では「利益」の比重が特に大きく設定されています。つまり、利益が下がれば評価額は一気に下がる。役員退職金を計上した期は、その金額が損金算入されて利益が圧縮されます。場合によっては単年度の利益がゼロ、あるいは赤字になることもある。

たとえば、通常期に評価額5,000万円だった株式が、退職金計上期には2,000万円台まで下がるというケースも珍しくありません。効果のインパクトが他の2つとは桁違いです。

ここで重要なのが「支給額の設計」です。不相当に高額な退職金は損金として認められません。功績倍率法(最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率)による算定が一般的で、役員の職責や会社規模によって認められる上限が変わります。必ず税理士と一緒に適切な金額を設計してください。

3つを組み合わせると、評価50%減も現実的

3位から1位を順番に組み合わせると、評価額50%減も十分に現実的なラインに入ってきます。ただし、効果は会社の規模・業種・株主構成によって大きく異なりますので、「うちでも必ず半分になる」と早合点は禁物です。

事業承継は「気づいたら手遅れ」になりやすい領域です。特に役員退職金は、社長が現役で活躍しているうちでないと使えません。一生に一度だけ切れるカードだと思ってください。

自社株の評価が気になっている方は、今期の決算が終わる前に、一度試算だけでも顧問税理士に依頼してみることをおすすめします。数字を見てからでないと、有効な対策も立てられません。動けるタイミングは、思っているより早く来ます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。