ある月曜の朝、知り合いの税理士から連絡が来ました。「顧問先の社長から緊急電話があって。『調査官が2人来た』って言うんですよ」
年商2億円の建設業を営む鈴木社長(仮名)。週末まで普通に仕事をしていたのに、月曜の朝9時、スーツ姿の男性2人が会社のドアを開けた。そして開口一番こう言ったそうです。
「まず交際費の領収書を全部出してください」
調査官が「最初に手をつける」3か所
元国税調査官として10年以上のキャリアを持つ方と話したとき、こんな言葉が印象に残りました。
「担当した案件の28%は、最初の3か所を確認するだけで問題が見つかりました。ほとんどの会社が同じところで引っかかるんです」
その3か所とは何か。順番に見ていきましょう。
① 交際費——私的利用との「グレーゾーン」が潜む
交際費は、税務調査でもっとも指摘されやすい科目のひとつです。「仕事の接待」と「プライベートの飲食」の線引きが難しく、曖昧なまま処理されていることが多いからです。
日曜の夜に高級寿司店での4人分の領収書があれば、調査官はすかさず「どなたとの接待ですか?」と聞いてきます。その場でスムーズに答えられなければ、そこから深掘りが始まります。家族との食事、友人との飲み会——そうした支出が混入していると、それだけで追加の説明を求められます。
領収書に「相手の名前・目的・人数」を書いておく習慣がない会社は、この時点でかなり不利な立場に立たされます。
② 現金勘定——売上計上漏れの「温床」になりやすい
現金出納帳に不自然なズレがあると、調査官は「現金で受け取った売上が帳簿に反映されていないのでは」と疑い始めます。
建設業や飲食業など現金取引の多い業種では特に注意が必要です。「ある日の残高がマイナスになっている」「明細が粗くて後から見ても何に使ったか分からない」——こうした状態は、それだけで疑義のきっかけになります。
現金の流れは、あとから再現するのが非常に難しい。「そのとき何に使ったか分からない」という説明は、調査官には通じません。日々の記録が、こういう場面で命取りになるのです。
③ 役員報酬の急変動——3年で月50万超の増加はマーク対象
役員報酬を期中に変更すると、原則として損金に算入できません。これは知っている経営者も多いのですが、問題はもうひとつあります。「急激な増加」です。
過去3年で月額50万円を超えるペースで増えている場合、調査官は必ず確認します。「業績に見合った増額か」「株主総会の決議はあるか」「議事録は保存されているか」。
増額の根拠が書面として残っていなければ、利益を不当に圧縮したとみなされるリスクがあります。「後から議事録を作ればいい」という感覚でいると、日付の整合性が取れず、逆に不信感を持たれます。
鈴木社長は3か所すべてで引っかかった
冒頭の鈴木社長に戻りましょう。
交際費には家族との飲食が混在し、現金残高には説明のつかないズレが複数あり、役員報酬は直近3年で月60万円近く増えていたにもかかわらず、議事録の整備が追いついていませんでした。
結果として、過少申告加算税10%を含む追徴課税が確定しました。本税が仮に200万円であれば、加算税だけで20万円が上乗せになる計算です。
鈴木社長が後になって話していたのは、「大きな不正をしたわけじゃない。ちょっとした曖昧さを放置し続けた結果だった」という言葉でした。
今日から整えておきたいこと
税務調査は、怪しい会社だけが対象になるわけではありません。申告内容の確認という意味では、どの会社にも起こりうることです。
だからこそ、「調査官が最初に見る3か所」を普段から整えておくことが大切です。交際費の領収書には相手の名前・目的・人数を必ずメモする。現金出納帳は毎日締め、残高が合わない日は翌日中に確認する。役員報酬を変更するときは、変更を決めたその日に議事録を作る。
地味に見えますが、これらが積み重なれば調査官の心証はまったく変わります。顧問税理士と定期的に帳簿の状態を確認する習慣を、ぜひ今期中に作っておきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。