先日、20年かけて会社を育て上げてきた60代の社長から、こんな相談を受けました。

「そろそろ引退を考えているんだけど、退職金3,000万円を受け取ったら税金いくら取られるの?」

結論から言うと、受け取り方次第で税負担が1,400万円以上変わります。同じ3,000万円でも、仕組みを知っているかどうかだけで、手元に残るお金がまったく異なるのです。

役員報酬として受け取ると、税負担1,600万円超になる

退職金を役員報酬の上乗せとして受け取った場合を考えてみます。

役員報酬は給与所得として扱われます。すでに高い報酬を受け取っている社長の場合、所得税と住民税を合わせた実効税率が最高55%に達することも珍しくありません。

3,000万円を役員報酬として受け取ると、課税所得がそのまま積み上がります。実効税率55%で計算すると、税負担は1,600万円を超えます。長年会社を経営してきた社長が、最後にこれだけの税金を払う——想像するだけで気が重くなりますね。

役員退職金なら、なぜ184万円で済むのか

同じ3,000万円でも、役員退職金として受け取ると話がまったく変わります

退職金には「退職所得控除」という特別な控除が適用されます。勤続年数が20年を超えると控除額が一気に大きくなり、勤続30年の場合は1,500万円もの控除が受けられます。

さらに、退職所得控除を差し引いた残額をもう一度1/2にしてから課税するという優遇も受けられます。数字で確認してみましょう。

  • 退職金:3,000万円
  • 退職所得控除(勤続30年):1,500万円
  • 課税対象額:(3,000万円 − 1,500万円)÷ 2 = 750万円

この750万円に税率を掛けると、所得税・住民税の合計は約184万円になります。役員報酬として受け取った1,600万円超と比べると、差額は1,400万円以上。まさに、知っているかどうかだけの差です。

なぜ退職金だけがここまで優遇されるのか

退職金は、長年の勤務の対価として一度にまとめて受け取るお金です。それを給与と同じ扱いにすると、受け取った年だけ税負担が激増してしまい不公平になります。そのため税制上、特別な優遇が設けられているわけです。

役員退職金も同じ考え方で、「役員としての在任期間全体への対価」として受け取れば、この優遇が適用されます。在任年数が長いほど控除額も大きくなるため、長く経営を続けてきた社長ほど恩恵を受けやすい仕組みです。

注意点:金額の根拠がないと否認されるリスクがある

ただし、何でも「退職金」と名付ければいいわけではありません。

税務調査でよく問題になるのが、役員退職金の額が「不相当に高額」と判断されるケースです。税務署は「功績倍率法」などを使い、最終報酬月額・在任年数・業績などをもとに相当額を検証します。根拠なく高額に設定すると、超過分が損金として認められず、法人税が増えるリスクがあります。

金額の算定根拠を整え、株主総会の議事録など手続き上の証拠もきちんと残しておくことが不可欠です。

引退の数年前から動くのが正解

退職金を節税に活かすには、引退の数年前から計画することが欠かせません

退職所得控除は勤続年数で金額が変わるため、引退時期のタイミングも重要です。また、他の所得が多い年に退職金が重なると、想定より税負担が高くなることもあります。生命保険や共済を使った積み立てと組み合わせれば、法人の節税と退職金原資の確保を同時に進めることもできます。

「退職金なんてまだ先の話」と後回しにしてきた社長ほど、引退直前に後悔するケースが多いのが現実です。今期の決算が一段落したら、顧問税理士と一緒に一度試算してみてください。1,400万円の差は、動いたかどうかで生まれます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。