先日、製造業を経営する65歳の社長からこんな質問を受けました。「退職金を3,000万円もらおうと思ってるんだけど、税金ってどのくらいかかる?」と。

現行制度で計算すると、税負担はほぼゼロに近い。ところが、2026年の税制改正が実施された後だと、話はかなり変わってきます。その差を聞いた社長の顔色が、みるみる変わっていきました。

退職金が「最後の節税」と呼ばれる理由

退職金が節税の王道とされているのは、「退職所得控除」という強力な制度があるからです。給与や事業所得と違い、退職金は課税のルールそのものが優遇されています。

現行制度では、勤続20年を超えた部分について、1年あたり70万円の控除が受けられます。勤続30年であれば計算はこうなります。

800万円(最初の20年分)+ 70万円 × 10年 = 1,500万円

これが退職所得控除額です。退職金として1,500万円受け取っても、課税所得はゼロ。さらに「退職所得の2分の1課税」という優遇もあるので、受取額が大きくなっても税負担は驚くほど抑えられます。だからこそ「社長の最後の節税」と言われてきたわけです。

改正案で何が変わるのか

政府は今、この制度の見直しを検討しています。改正案の中身はシンプルで、「勤続20年超の部分の控除額を年70万円から40万円に引き下げる」というものです。

勤続30年の場合、改正後の控除額はこうなります。

800万円(最初の20年分)+ 40万円 × 10年 = 1,200万円

現行制度との差額は300万円。この300万円が「消える」わけです。

「たった300万円では?」と思うかもしれませんが、退職所得には2分の1課税があるため、300万円の控除減は150万円の課税所得増に相当します。税率が30%なら45万円、40%なら60万円の税負担増です。勤続年数が長ければ長いほど、差は開いていきます。

「改正前に受け取ればいい」は本当か

重要なのは「退職金を実際に受け取った時点の制度が適用される」という点です。改正が決まった後に受け取れば、新しいルールが適用されます。

改正の施行時期はまだ確定していません。ただ、検討が具体化している以上、「まだ大丈夫だろう」と先送りするのはリスクがあります。来年以降に施行が決まれば、もう後手に回ることになります。

「もう少し社長を続けてから」という気持ちはよくわかります。ただ退職金の受取タイミングは、経営判断であると同時に税務判断でもあります。感覚ではなく、数字で考える必要があります。

今すぐ確認しておくべきこと

対策として、まず以下を確認してみてください。

ひとつ目は、役員退職慰労金規程の整備です。規程がなければ、退職金の損金算入自体が否認されるリスクがあります。意外と「規程はあるが何十年も見直していない」という会社が多いです。

ふたつ目は、退職金原資の確認です。法人保険を原資として積み立てている場合、解約返戻金のピーク時期と改正施行タイミングが合っているかを確認してください。タイミングがずれると、節税どころか損失になることもあります。

みっつ目は、一括か年金型かの比較検討です。一括受取が必ずしも有利とは限りません。分散して受け取る「年金型」との比較も、専門家を交えてシミュレーションすることをおすすめします。

動く前に、まず試算を

改正の内容はまだ流動的な部分もありますが、「変わるかもしれないから様子を見る」より「変わる前に試算する」の姿勢が大切です。試算して損はありません。動けないと判断してからでも、少なくとも現状は把握できます。

退職まであと3〜5年という社長こそ、今がタイミングです。まずは顧問税理士に「退職金をいつ受け取ると一番有利か、シミュレーションしてほしい」と一言伝えてみてください。その一本の相談が、手取り額で数十万円から100万円以上の差につながる可能性があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。