先日、70代の社長からこんな相談を受けました。「息子に会社を譲ろうと思っているんだが、何から始めればいいんだ?」。話を聞いてみると、承継についてほとんど何も準備できていない状態でした。
実は、こういう社長は珍しくありません。中小企業庁の調査でも、後継者が決まっていない企業が全体の約70%にのぼると言われています。準備なしに承継を迎えてしまうと、税負担や経営の混乱が子どもたちに直撃します。
今回は、私が税務の現場で何度も目にしてきた「事業承継を失敗させる行動」のワースト3をお伝えします。
3位:後継者育成を「そのうち」と先送りにしてしまう
事業承継の準備には、最低でも3〜5年かかります。これは単に「社長業を教える」だけの話ではなく、金融機関との関係、主要取引先への挨拶回り、社内のキーパーソンへの根回し、そして会社の法的・税務的な整理まで含みます。
「引退を考えてから動けばいい」と思っている社長が多いのですが、引退を考えるようになる頃には、すでに動けるエネルギーも時間も残っていないことがほとんどです。
後継者は経営の実務だけでなく、「この会社の顔」として対外的に認められるまでに時間がかかります。取引先に「社長が変わったら契約を見直そう」と思われないためにも、早めの登場と実績の積み上げが欠かせません。
「息子に継がせるか、外部に売却するか」がまだ決まっていなくても構いません。まずは選択肢を整理することから始めてください。その一歩が、3〜5年後の結果を大きく変えます。
2位:自社株の評価額を「どうせ大した額じゃない」と放置している
中小企業の社長のほとんどが、自社株の評価額を正確に把握していません。「うちは年商3億の小さな会社だから、株なんて大した価値じゃない」と思っているケースが多いのですが、実際に計算してみると数億円になっていることはよくあります。
相続税の計算では、自社株はその会社の純資産や収益力をもとに評価されます。黒字が続いていて内部留保が積み上がっていれば、帳簿上は小さな会社でも高い評価がつくことがあります。
問題は、これを知らないまま相続が起きてしまうことです。後継者が相続税を支払うために会社の預金を取り崩したり、事業用の不動産を売却しなければならなくなるケースも珍しくありません。
自社株の評価額は、税理士に依頼すれば試算できます。まず「今、うちの株はいくらなのか」を把握することが、すべての承継対策の出発点です。
1位:何も手を打たないまま、相続が起きてしまう
これが最も深刻なケースです。何年も「来年考えよう」と先送りにしているうちに、突然の病気や事故で社長に相続が発生してしまう。
そこで初めて家族が動くのですが、相続税の申告期限は10ヶ月しかありません。準備ゼロの状態で、複雑な会社の評価と節税対策を同時に進めることになります。
特に今、見逃せないのが事業承継税制の特例措置です。この制度を使えば、後継者が引き継ぐ自社株に対する贈与税・相続税が最大100%猶予されます。ただし、適用には都道府県への計画書提出など一定の手続きが必要で、申請期限は2027年12月末です。
つまり、あと1年半ほどしかありません。「知っていれば使えたのに」という相談を、私は毎年この時期に何件も受けます。使える制度を使い損ねるのは、純粋にもったいないことです。
承継対策は、早く始めるほど選択肢が増えます。今すぐ引退する必要はありませんが、「今の自社株評価額を把握すること」と「2027年末の特例措置期限を意識すること」、この2点だけは今日から動いてください。
備えがあれば、子どもたちに重荷ではなく財産を渡せます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。