先日、創業14年の建設業を営む社長から、こんな連絡が届きました。
「10年前に税理士に勧められて法人保険に入ったんですが、そろそろ解約時期なんですよ。でも、思ってたより手元に残らないと言われて……」
詳しく聞いてみると、累計1,000万円の保険料を積み立て、返戻率70%で700万円が戻ってくる設計だったとのこと。ところが実際に試算してみると、手元に残るのは460万円ほど。実質46%です。
なぜこうなるのか。今日はその「からくり」と、損をしないための出口設計をお伝えします。
返戻率70%は「手残り70%」ではない
法人保険の返戻率は、「払った保険料に対して何割が戻ってくるか」を示す数字です。1,000万円払って返戻率70%なら、700万円が戻ってくる。ここまでは正しい。
問題は、この700万円が「会社の収益(益金)」として扱われる点です。
解約返戻金を受け取った年度に、その金額がそのまま法人税の課税対象になります。中小企業の法人税実効税率はおおむね34%前後。700万円に34%の税がかかると、税額は約238万円。手元に残るのは462万円、つまり払った1,000万円のわずか46%です。
「節税のために入ったはずなのに」と青ざめる社長の気持ちは、よくわかります。
そもそも法人保険は「節税」ではなく「課税の繰り延べ」
保険料を支払うタイミングでは、損金に算入できる部分があります。2019年の税制改正で算入割合は厳しく制限されましたが、それ以前に加入したものは損金として処理してきたケースも多い。
利益が大きい年に保険料を損金計上すれば、その年の法人税を減らせます。手元にキャッシュを残しながら、税金の支払いを将来に先送りできる——これが「節税効果がある」と言われてきた理由です。
ただし、これは「節税」ではなく「繰り延べ」です。解約したときにまとめて課税が来るため、出口の設計を誤ると「結局ずっと税金を払い続けたのと変わらない」どころか、タイミングによっては損をします。
出口で差がつく——退職金と重ねれば課税を大幅に圧縮できる
では、どうすれば手残りを増やせるのか。
最も効果的な方法が、役員退職金の支給と同じ年に保険を解約することです。
役員退職金は損金になります。社長が引退する年に5,000万円の退職金を支払えば、その年に5,000万円の損金が発生します。同じ年に保険を解約して700万円の益金が出ても、損金との相殺で課税対象額は大幅に圧縮されます。
簡単なイメージはこうです。
- 役員退職金(損金):5,000万円
- 解約返戻金(益金):700万円
- 差し引き:▲4,300万円の赤字(欠損)
この場合、解約返戻金700万円にかかるはずだった税金はほぼゼロになります。繰り延べてきた課税を、退職金という「大きな損金」で吸収させる構造です。
入口では税金を繰り延べ、出口では退職金で相殺する。この2段構えが設計できれば、法人保険は本来の力を発揮します。
タイミングを間違えると損が確定する
逆に、退職金も特段の損金もない平年に解約してしまうと、700万円がそのまま課税所得に上乗せされます。その年の利益が多ければ、税率がさらに高くなることもあります。
「満期になったので解約した」「担当者に言われたから」——こうした受け身の判断が、数百万円単位の損失につながるケースを何度も目にしてきました。
法人保険は「入るとき」より「出るとき」の設計が9割と言っても過言ではありません。
今すぐ確認しておくべき3つのこと
保険に加入中でまだ解約していない社長は、以下の3点を確認しておくことをおすすめします。
- 解約返戻率のピーク時期:ピークを過ぎると急落するケースがある。いつが最大かを把握する
- 役員・社長の退職予定時期:出口タイミングの軸になる
- その年の利益水準の見通し:利益が低い年、または大きな損金がある年が解約の狙い目
この3つを組み合わせて「一番税負担が少ない年」を逆算するのが出口戦略の基本です。
法人保険は正しく使えば資金繰りと節税を両立できる手段ですが、何も考えずに解約すれば「払った額より大幅に少ない手残り」という結果になりかねません。
社長が50〜60代に差し掛かっているなら、今のうちに税理士と解約シミュレーションをしておくことを強くおすすめします。退職まで時間があるほど、選択肢は広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。