先日、埼玉で製造業を営む60代の社長とお茶をしていたとき、こんな話になりました。

「10年前に顧問の先生に言われるままに保険に入ったんだけど、来年解約したら4,800万円になるって連絡が来てさ。正直あのとき半信半疑だったんだよね」

その社長、今ではすっかり満面の笑みです。退職金の原資が、気づけばしっかり育っていた。しかも節税しながら、です。

退職金の原資、どうやって積んでいますか?

多くの中小企業の社長は、退職金を「会社の現預金から出せばいい」と考えています。でも、それには大きな落とし穴があります。

現金でそのまま積み立てても、法人税の節税にはなりません。会社の利益から税金を引いた残りを貯めるわけですから、そもそも効率が悪い。一方で生命保険を使えば、保険料の一部または全部を「損金(経費)」として算入しながら積み立てができます。

つまり、節税しながら退職金を準備できるという、一石二鳥の仕組みです。

年500万円の保険料が、10年で4800万円になる理由

先ほどの社長のケースを少し詳しく見てみましょう。

毎年500万円の保険料を払い続け、10年間で投入した総額は5,000万円。解約返戻金は約4,800万円でした。「元本割れしてるじゃないか」と思った方、少し待ってください。

ポイントは、支払った保険料の一定割合が損金に算入されていることです。仮に損金算入割合が50%なら、毎年250万円が経費として落ちている計算になります。10年間で2,500万円の損金効果。法人税率30%で試算すると、750万円ほどの節税効果が生まれます。

現金で5,000万円をそのまま積んだ場合と比べると、実質的なコストは大きく変わってくるわけです。

受け取るときも「退職所得控除」という強い味方がいる

保険の解約返戻金を退職金として受け取るときに使えるのが、退職所得控除です。

退職所得控除は、勤続年数に応じて計算されます。たとえば勤続20年超の場合、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」という計算式で控除額が決まります。勤続30年なら控除額は1,500万円。さらに退職所得は、控除後の金額を2分の1にしてから課税されます。

これが給与所得や事業所得と比べて、いかに有利かがわかります。同じ5,000万円を受け取るにしても、どの所得区分で受け取るかで手取りが数百万円単位で変わってくるのです。

保険の出口(解約・退職金受け取り)を設計の段階からきちんと考えておくことが、この節税スキームの肝です。

ただし、「昔の設計」のまま放置は危険です

ここで一つ、大事な話をしておかなければなりません。

法人保険をめぐる税務ルールは、2019年に大きく改正されました。それ以前に「全額損金」「半額損金」として設計されていた保険商品の多くが、現在では取り扱い方が変わっています。

古い設計のまま加入し続けている場合、想定していた損金効果が得られていないケースもあります。また、保険の種類によって解約返戻率のピークが異なるため、「いつ解約するか」のタイミングも非常に重要です。

さらに、退職金の金額が「社長の功績」に見合っているかどうかも税務調査で問われるポイントです。功績倍率や最終報酬月額をもとにした適正額の計算は、専門家と一緒に事前に整理しておくべきです。

今すぐ確認してほしい3つのこと

生命保険を使った退職金設計に興味を持った方は、まず以下の点を整理してみてください。

  • 現在加入している法人保険の解約返戻率のピーク時期はいつか
  • 退職予定時期と保険の満期・ピークがずれていないか
  • 退職金の適正額としていくらを想定しているか

この3点がそろって初めて、保険設計の見直しや新規加入を検討できます。思い当たる保険証券が手元にある方は、今すぐ確認してみてください。


退職金の準備を「なんとなく現金で」と考えているうちに、節税できるゴールデンタイムは過ぎていきます。社長の年齢が若いほど、保険を活用できる期間は長くなります。

「まだ先でいい」と思っているなら、それが一番もったいない。今期の決算が終わったタイミングで、顧問税理士に退職金設計の相談を持ちかけてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。