先日、顧問先の社長からこんな連絡が届きました。「退職金を2億円で支給したら、税務署に4,000万円分を否認されました」——。社長は、適法な節税のつもりで役員退職金を活用していたはずでした。しかし結果として、その大部分が認められなかったのです。

役員退職金は、うまく設計すれば会社の節税と個人の手取りを同時に最適化できる、強力な手段です。ところが、否認される案件には驚くほど共通のパターンがあります。今回は、税務調査で役員退職金が否認された社長に見られる3つの共通点を、リスクの高い順に整理しました。

3位:勤続年数が短すぎる

役員退職金の計算は、一般的に「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」という式で行われます。この式で計算した金額が「相当の額」であれば損金算入できますが、問題は「相当の額」の判定が税務署側にあるということです。

特に勤続年数が短い場合、高額退職金は「過大」と判定されやすくなります。在任10年未満で数千万円規模の退職金を支給したケースでは、否認率が30%を超えることもあるというデータがあります。たとえば創業から8年で会社を整理するケースでは、役員報酬が高水準であっても「そもそも貢献期間が短い」と見られるリスクがあるのです。

10年という節目は一つの目安です。退職金を計画している方は、まず支給時点での在任年数を確認することから始めましょう。

2位:功績倍率が高すぎる

続いて否認されやすいのが、功績倍率の設定です。同業他社の比較や業績貢献度をもとに設定するこの倍率は、実務上2〜3倍が「税務的に根拠を説明しやすい範囲」とされています。

ところが、社長自身が会社の要であることを強調するあまり、倍率を5倍・6倍と設定してしまうケースがあります。そうなると税務署から「なぜその倍率なのか?」と問われたときに答えられず、根拠不十分として否認されてしまいます。

倍率の設定には、同業他社の退職金事例や会社の業績推移など、客観的な資料を用意しておくことが重要です。「自分が会社を支えてきたから」という感覚的な理由では、調査には耐えられません。倍率が高ければ高いほど、それを裏付ける材料が必要になると覚えておいてください。

1位:株主総会の決議・議事録が不完全

最も否認されやすく、かつ深刻なのがこのケースです。役員退職金は、株主総会(または取締役会)での決議が必要です。この手続きが曖昧だったり、議事録が事後作成・記載不備・捺印なしといった状態だと、税務署に「仮装取引」と判定されることがあります。

仮装取引と見なされた場合、通常の加算税(10〜15%)ではなく、重加算税として35%が課されます。2億円の退職金であれば、7,000万円を超える追徴になることもあり、ダメージは桁違いです。

書類の整備は地味に見えますが、役員退職金においては「支給額の適正さ」以上に重要な場面があります。退職金支給を検討している場合は、必ず事前に税理士と連携し、決議・議事録を正確に整えておいてください。

3つのポイントを整理すると

否認されやすいパターンをまとめると、「短い在任期間」「根拠のない高倍率」「書類の不備」の3点に集約されます。逆に言えば、この3点をクリアした退職金設計であれば、税務調査の場でも十分に説明が立ちます。

特に議事録や決議の整備は、費用もかからずすぐに着手できる対策です。「そういえばうちの議事録、ちゃんとできていないかも」と感じた方は、今すぐ顧問税理士に確認することをおすすめします。退職金は支給後に設計を見直すことはできません。計画は早ければ早いほど、選択肢が広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。