先日、ある社長から相談を受けました。年商8億円の印刷業を営む60代の社長で、息子さんへの事業承継を検討し始めた矢先、顧問税理士に試算してもらったところ「自社株だけで相続税が4,000万円を超えるかもしれない」と言われ、青ざめてしまったそうです。
「自社株って、会社の中にあるだけで現金は手元にないのに、どうやって払えばいいんですか?」
その気持ち、よくわかります。会社の評価が上がれば上がるほど、相続税も膨らむ。これが中小企業オーナーが陥りがちな「資産はあるのに現金がない」という罠です。
ただ、生前にきちんと手を打てば、相続税をゼロに近づけることは十分可能です。今日は実際に効果が高い対策を3つ、具体的にお伝えします。
第3位:暦年贈与でコツコツ自社株を移転する
まずは地味に見えて確実に効く手法が「暦年贈与」です。
贈与税には年間110万円の基礎控除があります。後継者(息子さんや娘さん)に対して毎年110万円以内の贈与であれば、贈与税はかかりません。これを自社株に活用するのが暦年贈与の基本的な考え方です。
株価が1株10万円の会社なら、毎年11株を後継者に渡せます。10年続ければ110株、約1,100万円分の自社株を税負担なしで移転できる計算です。
「たった110万円では焼け石に水」と感じるかもしれませんが、大切なのは「早く始めること」と「継続すること」の2点に尽きます。60歳から始めると70歳までの10年間で相当額の株を移転できますし、これを50代から始めていれば、効果はさらに倍になります。
なお、2024年から贈与税のルールが変わり、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されるようになりました(従来は3年)。早めに始めるほど有利な点は変わりませんが、この改正は押さえておきましょう。
第2位:生命保険の非課税枠を最大限に活かす
次に使いたいのが「生命保険の非課税枠」です。
相続税法では、被相続人が契約していた死亡保険金について、500万円×法定相続人の数までが非課税とされています。法定相続人が3人いれば、1,500万円が相続税の対象外になる計算です。
この対策には2つの狙いがあります。一つは「相続税の圧縮」。保険金として受け取ることで、その分だけ課税対象から外れます。もう一つが「納税資金の確保」です。
自社株は現金化しにくい財産です。相続税の納期限は原則10か月以内で、現金がなければ株を売却するか物納するしかない状況に追い込まれることもあります。生命保険の死亡保険金は比較的速やかに受け取れるため、相続税の納税資金として活用しやすいのが大きなメリットです。
保険料が発生する分コストはかかりますが、相続時のリスクと比較すれば費用対効果は十分高い選択肢といえます。
第1位:事業承継税制の特例措置(期限は2027年12月末)
3つの中でインパクトが最大なのが「事業承継税制の特例措置」です。
一言で説明すると、後継者が自社株を相続・贈与で引き継いだ場合に、本来かかるはずの相続税・贈与税が100%猶予(実質免除)される制度です。先ほどの印刷業の社長の例でいえば、4,000万円が猶予される可能性があります。
適用条件は、中小企業の範囲内であること、後継者が代表者に就任すること、一定期間は従業員の雇用を維持することなどです。要件を満たせなくなった場合には猶予された税額と利子税を支払う必要があるため、事前にリスクも理解しておくことが大切です。
そして最も見落とせないのが適用期限です。この特例措置を使うには、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出し、認定を受ける必要があります。
「まだ1年以上ある」と思うかもしれませんが、計画書の作成・認定申請・後継者の要件確認・実際の承継手続きまで含めると、動き出してから完了まで1〜2年かかることも珍しくありません。今から動いてもギリギリになる可能性は十分あります。
組み合わせることで節税効果は最大化する
ここまで3つの対策をお伝えしました。整理するとこうなります。
- 暦年贈与:今すぐ始めて毎年コツコツ実行
- 生命保険:保険の見直しとあわせて非課税枠を活用
- 事業承継税制:2027年末の期限を意識して今すぐ動く
3つは組み合わせることが可能で、1つだけ使うよりも複数を組み合わせたほうが節税効果は大きくなります。自社の状況に合わせて最適な組み合わせを選ぶことが重要です。
自社株の相続問題は「やろうと思っていたけど後回しにしていた」という声を本当によく聞きます。後継者への思いがあるなら、まずは顧問税理士に「事業承継税制の特例、まだ使えますか?」と聞いてみてください。その一言が、数千万円の節税につながるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。