先日、顧問先の社長からこんな連絡が来ました。「来月、税務調査が入るんですが、何か準備しておくことはありますか?」その方の決算書を見直したとき、正直ひやりとしました。
税務調査の通知が来てから慌てても、できることには限りがあります。
法人の調査率はおよそ4.5%。つまり20〜25社に1社が、毎年何らかの調査を受けているというデータがあります。そして実際に指摘を受けた場合、追徴税額の平均は324万円です。「うちには関係ない」と高をくくれる数字ではないはずです。
調査官はプロです。これまでの経験から、どこを見れば不備が見つかるかをすでに知っています。今回は、調査官が真っ先に目を向ける経費の落とし穴を、ランキング形式でお伝えします。
3位:交際費——「1万円以下だから大丈夫」は半分正解
2024年の税制改正で、1人あたり1万円以下の飲食費は交際費から外れ、全額損金算入できるようになりました。これは多くの社長にとって朗報でした。
ただし、この改正には大事な条件があります。それが「記録の整備」です。
具体的には、①飲食等の年月日、②参加者の氏名・所属、③参加人数、④金額、⑤飲食の目的——この5項目をすべて残しておく必要があります。調査官はこの5項目が揃っているかを一つひとつ確認してきます。
「金額が1万円以下だから多少曖昧でも」と思っていると危険です。記録が不完全な領収書は、金額に関係なく全額否認されることがあります。レシートの余白に「〇〇商事 山田部長 3名 新商品のご提案」とメモするだけで格段に変わります。手間は30秒です。
2位:役員社宅・社用車——「全部会社の経費」は通らない
社宅や社用車を会社名義で持っている場合、「全額経費にしています」という社長は少なくありません。節税として有効なのは事実ですが、問題になるのが「家事按分」です。
プライベートで使っている割合があるなら、その分は経費として認められません。調査官は「どの程度業務で使っているか」を、走行距離の記録や行き先のログなどから実態ベースで掘り起こしてきます。
「根拠がない」状態で「全部業務用」と申告していると、実態調査を経て大幅な修正申告を求められるケースがあります。対策はシンプルです。業務使用の根拠を記録しておくこと。社用車なら運行日誌、社宅なら業務スペースの割合を文書化しておくだけで、調査官への説明がスムーズになります。
1位:役員退職金——「功績倍率3倍だから安心」の誤解
調査官が最も時間をかけて調べるのが、役員退職金です。
よく「功績倍率を2〜3倍に設定しておけば問題ない」と言われますが、この倍率はあくまで目安であって、法律で定められた上限ではありません。在職年数が短い、あるいは業績との整合性がないと判断されれば、たとえ倍率が3倍以内でも「過大退職金」として損金否認される可能性があります。
特に注意が必要なのは、就任から数年で多額の退職金を支給するケースです。「退職慰労金規程を作って、計算式通りに支給したから大丈夫」と思っていても、その規程の妥当性自体が問われることがあります。
退職金は一度支給してしまうと取り消しが効きません。後から「やり直し」ができない分、事前の設計が命です。支給の予定がある場合は、早めに税理士と一緒に「相当性の根拠」を固めておくことを強くおすすめします。
調査が来る前にできること
税務調査の通知が来てから対策を始めても、できることは限られています。普段の記録習慣と経費の根拠を整備しておくことが、最大の防御になります。
今期の決算が近い方は、交際費の記録・社宅と社用車の按分根拠・退職金規程の妥当性——この3点だけでも今一度確認してみてください。ちょっとした記録の差が、調査官との対話の質を大きく変えます。
税務調査は「来るかもしれない」ではなく「いつか来る」と思って準備しておく方が、長い目で見ると断然リスクが低くなります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。