先日、製造業を経営している田中社長(仮名)から、こんな電話がかかってきました。「税務調査が終わったんだけど……追徴が1,200万円になった」と。

正直、私もこの金額を聞いたとき、思わず言葉に詰まりました。1,200万円というのは、決して大企業だけの話ではありません。年商数億円クラスの中小企業でも、十分に起こりうる数字なのです。

「みんなやってる」が3年間続いた

田中社長が問題にされたのは、主に2つの支出でした。

家族と行った沖縄旅行を「社員研修」として計上していたこと。そして、仲間と楽しんだゴルフのラウンドを、毎回「接待費」として処理していたことです。

「これくらいはどこでもやってるから大丈夫」——そう思っていたと田中社長は話します。周囲の経営者仲間も似たようなことをしていると聞いていたし、顧問税理士にも「できるだけ経費で落として」とだけ伝えていた。それが3年間、続きました。

税務調査が入って、現実を突きつけられた

ある日、所轄税務署から一本の電話が入ります。「調査にお伺いしたいのですが」——この一言で、田中社長の日常は一変しました。

調査は2日間にわたりました。調査官が確認したのは、旅行の写真、ゴルフのスコアカード、参加者リスト……。「社員研修」とされた旅行の参加者が家族4人だけだったこと、「接待」とされたゴルフの相手が取引先でも何でもなかったことが、次々と明らかになっていきました。

結果、3年分の経費が「事業との関連性なし」として全額否認。税法上は5年前まで遡及できるため、調査対象期間は5年に拡大されました。本税の追徴に加え、過少申告加算税(10〜15%)と延滞税まで重なり、最終的な請求額は総額1,200万円に達しました。

経費の「正しい定義」を知っていましたか?

ここで少し立ち止まって考えてほしいのですが、経費として認められるための条件は何だと思いますか?

税務上、経費として認められるには「事業との直接的な関連性」が必要です。領収書があること、会計ソフトに入力されていること——それだけでは足りません。「なぜその支出が事業に必要だったのか」を具体的に説明できることが求められます。

たとえば社員旅行なら、参加者が全員従業員であること、研修としての実態があること。接待交際費なら、誰を接待したのか、どんな商談があったのかを記録しておく必要があります。「旅行したから研修費」「ゴルフしたから接待費」という処理は、実態が伴わなければ否認されます。

「グレーゾーンを攻める」ことのリスク

節税は大切です。合法的に税負担を最小化することは、経営判断として正しい選択です。しかし、グレーゾーンを意図的に広く解釈して使い続けることは、全く別の話です。

経費を否認されると、本税の追徴だけでは終わりません。悪意が認定された場合、重加算税(35〜40%)が課されることもあります。また、一度問題が見つかると、翌年以降も継続的に調査対象になりやすくなります。

「みんなやってる」は、税務署には通じません。調査官は実態を見ます。

今すぐできる3つの対策

田中社長のような事態を防ぐために、今からでも始められることがあります。

経費の判断基準を事前に確認する。「これは経費にできますか?」を事後に聞くのではなく、「このケースはどんな記録があれば大丈夫ですか?」を事前に確認する習慣をつけてください。判断の主導権を持つことが重要です。

**証跡を残す。**ゴルフや会食なら、相手先・目的・話した内容を一言メモする。旅行なら、プログラム・参加者リスト・議事録を残す。これだけで、調査官の心証はまったく変わります。

**社内規程を整備する。**旅費規程や接待交際費の基準を文書化しておけば、「恣意的に経費を膨らませた」という指摘を防ぐ盾になります。規程があるだけで、調査の切り口が変わります。


田中社長は最後に、「あのとき税理士にちゃんと相談していれば」と話していました。節税は、知識と準備で守るものです。感覚でグレーゾーンを広げ続けると、ある日突然、1,200万円の請求書が届くことになります。

自社の経費計上に少しでも不安があるなら、今期の決算前に税理士へ一度相談しておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。