先日、従業員10名ほどを抱える建設業の社長からこんな一言をもらいました。
「去年も結構税金持っていかれましたよ。なにかうまい節税ないですかね?」
決算が終わった後に言われても……というのが正直なところです。でも、こういった社長が毎年同じことを繰り返してしまう理由には、ほぼ共通点があります。「制度が変わったことを、そもそも知らなかった」という点です。
2026年4月、いくつかの税制改正が施行されました。そのなかで、中小企業の社長にいますぐ確認してほしい制度が一つあります。賃上げ促進税制です。
「税率が下がる」ではなく「税額から直接引ける」
賃上げ促進税制とは、前の年度と比べて従業員への給与総額を増やした場合に、その増加分の一定割合を法人税から差し引ける制度です。
ここで大切なのは「税額控除」という点です。所得から引く「所得控除」とは異なり、計算後の法人税そのものから引きます。100万円の税額控除なら、そのまま100万円の節税になる。これは非常に強力な制度です。
2026年改正後の中小企業向け基本控除率は、給与増加額の25%。さらに追加の要件を満たすと上乗せが入り、最大**45%**まで引き上げられます。
数字で見ると差の大きさが実感できる
具体的に考えてみましょう。前の年より給与総額を200万円増やしたとします。
基本の25%だけでも、200万円 × 25% = 50万円の税額控除。上乗せ要件を満たして45%になれば、200万円 × 45% = 90万円の税額控除になります。
同じ給与の増やし方でも、制度を使うか使わないかで最大90万円の差が生まれます。これが毎年積み重なると、5年で450万円です。
もちろん、給与を増やすぶんコストも増えます。ただ、人材確保のために給与アップを検討しているなら、どうせ出るコストを税制で部分的に取り戻せるわけです。「どうせ払う給与なら、制度を使って回収する」という発想が重要です。
知らないだけで毎年損し続ける怖さ
この制度の本当の怖さは、「知らなくても罰則がない」という点にあります。
罰則がないから後回しにされやすい。でも、対応した会社と対応しなかった会社の間で、毎年静かに差が開いていきます。同じくらいの規模の競合他社が節税で資金を手元に残し、それを採用や設備投資に回している一方で、自社は同じ税金を払い続ける——この差は、じわじわと事業規模の差になっていきます。
そして税制は毎年変わります。今年使える制度が来年も同じとは限りません。「来期でいいや」と思っているうちに適用期間が終わった、というケースも実際にあります。
大枠だけでも押さえておくと相談がスムーズ
賃上げ促進税制を適用するには要件があります。細かい数字は顧問税理士に確認するのが確実ですが、大枠を知っておくと相談がスムーズになります。
中小企業向けの主なポイントは次の3点です。
- 前年度と比べて給与等支給額が増加していること
- 増加率が一定の基準を超えると上乗せ控除が適用される
- 教育訓練費の増加など追加要件を満たすとさらに控除率が上がる
「うちは給与を上げているから使えるはず」と思っても、計算の細かい部分で対象外になるケースがあります。逆に「うちには無理だろう」と決めつけて確認しないまま、使い損ねているケースも少なくありません。一度試算してもらうだけで、答えが出ます。
決算前の「一言確認」が何十万円もの差になる
税額控除は申告の段階で反映させるものです。「決算が終わってから気づいた」では間に合わないことが多い。修正申告で対応できるケースもありますが、決算前に把握しておくのとは手間が全然違います。
決算月の2〜3ヶ月前には、顧問税理士に「今期の賃上げ促進税制、うちは使えますか?」と確認しておくのが理想です。今期の給与支払い状況をざっくり整理しておくと、より具体的な試算をしてもらえます。
まだ今期の決算を迎えていない社長は、今すぐ確認することをおすすめします。知っていれば使えたのに、知らなかっただけで毎年損をする——それが税制対応の現実です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。