先日、ある製造業の社長からこんな話を聞きました。「30万円のパソコンを買ったんだけど、全額経費にできないって言われた。数年かけて少しずつ償却するしかないって。節税したかったのに、なんか損した気分で」と。

その社長は別に損をしていたわけではありません。ただ、知っている社長と知らない社長では、同じ設備を買っても手元に残るお金がまるで違う。2026年の税制改正で、その差がさらに広がりました。

「少額減価償却」の特例、何が変わったのか

通常、設備や機器を購入すると、その費用は「減価償却」として数年にわたって少しずつ経費化していきます。100万円のサーバーなら、5年間かけて毎年20万円ずつ費用計上する、というイメージです。

これだと購入した年の節税効果は薄い。だから中小企業向けに「30万円未満の資産は一括で経費化できる」特例がありました。

2026年4月からこの上限が40万円に引き上げられました。さらに年間の合計適用枠も300万円まで。つまり、40万円未満の設備を購入した年に、全額をまとめて経費として落とせるようになったということです。

800万円が境界線になる理由

「上限が10万円増えただけでしょ」と思う社長も多いかもしれません。でも、これが法人所得800万円超の会社にとっては大きな話です。

法人所得が800万円以下の中小企業には軽減税率が適用され、実効税率はおよそ23%程度。ところが800万円を超えた部分には、実効税率が約34%かかってきます。

試しに、39万円の設備を買うケースで比べてみましょう。

  • 所得が800万円以下の範囲で経費化 → 節税額は約9万円
  • 800万円超の部分で経費化 → 節税額は約13万円

同じお金を使っているのに、節税効果が4万円以上違う。法人所得が800万円を超えている社長ほど、設備投資のタイミングと金額を戦略的に考える価値があるということです。

「年間300万円」の枠をどう使うか

年間300万円という枠は、1台40万円未満の設備なら最大8台近くまで一括経費化できる計算です。

たとえばこんな使い方が考えられます。社員用のパソコン(1台35万円)を複数台まとめて購入する、業務用ソフトウェアのライセンス(1件38万円)を取得する、店舗や事務所の備品・什器を39万円以内で整備する——こうした「どうせ買う予定だったもの」を決算前に前倒しするだけで、手元のお金が十数万円単位で変わってきます。

ひとつ注意したいのは、「1件あたり40万円未満」という条件の解釈です。本来セットで使うものを意図的に分割購入して特例を適用しようとすると、税務調査の際に問題になることがあります。あくまで実態として独立して使える設備であることが前提です。

決算前に動けるかどうかが全て

この特例を活かすには、事業年度内に「取得」して「使用開始」していることが条件です。決算月ギリギリに発注しても、納品・使用開始が翌期にずれ込めば対象外になります。

「今期800万円を超えそうだ」と気づいたタイミングで、顧問税理士に相談して設備投資の計画を立てるのが正解です。何より大事なのは、税理士への相談より先に自分で動かないこと。適用条件や上限の使い方を誤ると、修正申告という余計な手間が生まれます。

今期の決算が近い社長は、まず顧問税理士に「40万円の少額減価償却特例、使えますか?」と一言聞いてみてください。その一言が、数十万円の差になるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。