先日、ある社長からこんな相談を受けました。「来年あたりで引退を考えているんですが、退職金って税金いくらかかるんですか?」勤続30年、最後の役員報酬は月150万円。退職金として3,000万円を受け取る予定だとおっしゃっていました。
「給与と同じくらい税金を取られるんでしょ?」と思っていたその社長、計算結果を見て思わず「え、これだけ?」と声を上げました。税額はなんと約180万円。3,000万円に対する実効税率に換算するとわずか6%です。
なぜ退職金はここまで税金が少ないのか
同じ3,000万円でも、賞与や給与として受け取ると話は全く変わります。税率30〜40%が適用されると、900万円以上が税金として消えていきます。手取りで2,000万円を下回ることも珍しくありません。
退職金にはこれとは全く異なる課税ルールがあります。その核心は「退職所得控除」と「二分の一課税」という2つの優遇制度です。この2つが組み合わさることで、驚くほど税負担が軽くなります。
退職所得控除の仕組みと金額
退職所得控除とは、退職金のうち一定額を非課税にする制度です。勤続年数が長ければ長いほど、控除額は大きくなります。
計算式はこうなっています。勤続20年以下の部分は1年あたり40万円、20年を超えた部分は1年あたり70万円が控除されます。勤続30年であれば、「800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円」が非課税枠として認められます。
3,000万円の退職金から1,500万円を引くと、課税対象は残り1,500万円です。でもここで終わりではありません。
さらに半分になる「二分の一課税」
退職所得には「二分の一課税」という制度があります。課税対象の退職金をさらに2分の1にしてから税率を掛けることができるのです。
先ほどの1,500万円を半分にすると750万円。この750万円に対して所得税と住民税が課されます。実際の税率は状況によって異なりますが、概ね23〜24%程度になるケースが多く、税額は170〜180万円前後に収まります。
元の3,000万円に対して180万円というのは、実効税率6%です。同じ金額を給与として受け取った場合と比べると、700万円以上の差が出ることもあります。
退職金の適正額を決める「功績倍率法」
退職金をいくらにするかにも、実は計算式があります。税務上よく使われるのが「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」という功績倍率法です。
功績倍率は役職によって異なります。代表取締役であれば2.0〜3.0倍、専務取締役で2.4倍、常務取締役で2.2倍、その他の取締役で1.5〜2.0倍が一般的な目安です。ただし、これはあくまで目安であり、同業他社との比較や実際の貢献度なども考慮されます。
過大な退職金は税務署から損金算入を否認されるリスクがあります。金額設計は慎重に行う必要があります。
現役中の報酬設計が手取りを左右する
退職金の節税効果を最大化するためには、現役中の報酬設計が重要です。功績倍率法では「最終報酬月額」が計算の基準になるため、退職直前の報酬水準が手取り額に直結します。
また、勤続年数の計算にも注意が必要です。途中で一旦退任して再就任した場合、勤続年数のカウントがリセットされることがあります。特定の税務処理をしているかどうかによって計算が変わりますので、早めに確認しておくことをおすすめします。
見落としがちな3つの落とし穴
退職金を損金として計上するには、株主総会または取締役会での決議が必要です。決議の内容を議事録としてきちんと残しておかないと、後から否認されるリスクがあります。書類の整備は地味ですが、非常に重要です。
退職後も実質的に経営に関与し続けていると、税務署から「本当に退職したのか」と問われることがあります。顧問契約を結ぶ場合は、報酬額を抑えるか、業務の実態を明確にしておくことが大切です。
さらに、2013年以降の法改正により、勤続5年以下の役員は二分の一課税が適用されなくなっています。短期間での退職金支給を検討している場合は、この点に特に注意が必要です。
退職金の設計は、引退の直前に慌てて考えるものではありません。役員報酬の水準は退職金の計算に直接影響するため、今の報酬設計が将来の手取りにどう響くかを逆算しておくことが大切です。まだ退職金規程を整備していないなら、今期中に税理士と一緒に見直しておくことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。