先日、年商3億円ほどの建設業を営む社長から、こんな連絡が届きました。

「税務署から実地調査の通知が来たんですが……なんでうちが選ばれたんですかね」

聞けば、前期に社長の役員退職金を計上し、今期は後継者への株式譲渡を進めているとのこと。「もしかして、それが原因ですか?」と問われて、正直に答えるしかありませんでした。「かなりの確率で、そうだと思います」と。

税務調査は「くじ引き」ではない

よく「税務調査は運次第」という社長がいますが、実態はまったく違います。

国税庁が毎年公表している統計によれば、年間約2.7万社の法人が実地調査を受けており、そのうちおよそ70%で申告漏れが発覚しています。これは偶然の産物ではなく、調査官がある程度「狙いを絞って」会社を選んでいる結果です。

裏を返せば、選ばれやすい会社には共通のパターンがある、ということです。経験と各種資料をもとに、現実的な3条件を整理しておきます。知っておくだけで、かなりリスクの見え方が変わります。

条件① 業界平均から外れた「高い経費率」

調査官が最初に目を光らせるのが、業界平均と比較した経費率のズレです。

国税庁には膨大な申告データが蓄積されており、業種ごとの「標準的な経費率」が把握されています。たとえば飲食業なら原価率が何%で、人件費がどの程度、という相場感です。そこから大きく外れた数字が申告書に並んでいると、「何か隠れているのでは」と判断されやすくなります。

特に経費率が突出して高い年が続いている場合は、注意が必要です。正当な理由がある場合でも、それを説明できる証拠がなければ、調査の場で苦しくなります。

自社の経費率が業界平均の水準にあるかどうか、決算前に一度チェックしておくだけで、リスクの全体像はかなりクリアになります。

条件② 直前期に「売上が急変動」した会社

売上がある年だけ急に跳ね上がったり、逆に大幅に落ちたりした場合も、調査の対象になりやすいです。

特に警戒すべきは、売上が急増した翌期に利益が極端に圧縮されているようなケース。「売上は増えたのに、なぜ利益が出ないのか」という疑問が生じやすく、調査官の「見に行きたい」スイッチが入りやすくなります。

もちろん、正当な理由で売上や利益が変動することはあります。大口の受注が重なった、設備投資をまとめて行ったなど、説明できることは多いはずです。ただ、その理由を裏付ける書類をきちんと保管しているかどうかが、調査の場面では決定的な差になります。「口頭で説明できる」だけでは不十分です。

条件③ 役員退職金・株式譲渡を計上した「直後」の会社

これが、冒頭の社長が直面したケースです。

役員退職金や株式譲渡は、一件の金額が大きくなりやすいため、それだけで申告書が目立ちます。さらに事業承継のタイミングは、退職金・株式・贈与・相続が絡み合った複雑な動きが起きやすく、申告の誤りや意図的な操作が疑われやすい局面でもあります。

「出口戦略の直前後は、税務調査リスクが最も高まる」と考えておいて損はありません。承継を検討しているなら、まさに今がリスク点検のタイミングです。

対策は「事前の準備」に尽きる

3条件を踏まえたうえで、具体的にやるべきことを整理します。

まず、自社の申告数値を業界平均と定期的に照合しておくこと。毎期の決算時に顧問税理士へ「同業他社と比べてどうか」を確認する習慣をつけるだけで、リスクの把握は格段に楽になります。

次に、退職金を計上するときは必ず算定根拠を文書化しておくこと。「功績倍率法でこのように計算した」「役員のこれだけの貢献がある」という根拠を書面で残しておけば、調査が入っても明確に説明できます。根拠なき高額退職金は、調査で否認されるリスクが高まります。

そして最も重要なのが、事業承継を進める前に顧問税理士と「事前リスク診断」を行うことです。承継後に調査が来てから対応しようとしても、後手に回ることが多い。事前に洗い出しておけば、修正の余地があります。

「狙われやすい会社」にならないために

税務調査は、ある日突然やってくるものです。「ウチは大丈夫」という感覚ほど危ういものはありません。

今すぐ承継の予定がないとしても、経費率の水準や売上変動の説明資料は、日頃から整備しておく価値があります。何かあったときに「すぐ出せる状態」にしておくことが、経営者としての守りの一手です。

税務調査で青ざめる前に、一手先を打っておく。それが、長く経営を続けてきた社長たちに共通する習慣だと感じています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。