「退職金って、いくらにすればいいんですか?」——この質問、毎年必ずどこかの社長から受けます。特に決算が近づいてくると、「そういえば何も準備していない」と気づいて焦る方が多いのです。
退職金は、正しく設計すれば法人の損金として計上でき、個人側でも退職所得控除が使えるため、節税効果が極めて高い手段です。ただし、税務署が「過大退職金」と判断した瞬間、損金が全額否認されることがあります。実際に税務調査で億単位の退職金が否認された事例も複数あり、「多ければいい」という発想は非常に危険です。
では、どう計算すれば税務署に認められるのか。よく使われる3つの方法を、実際の数字を交えながら整理してみましょう。
第3位:最終報酬月額法|シンプルだが根拠が弱い
最もわかりやすい計算式は「最終報酬月額 × 勤続年数」です。月収100万円で20年間経営してきた社長なら、100万円 × 20年 = 2,000万円。電卓があれば誰でも5秒で計算できます。
ただし、この方法の最大の弱点は「なぜこの金額なのか」という説明が難しいことです。税務調査官に根拠を問われたとき、「計算式に当てはめました」だけでは説得力に欠けます。
後述する功績倍率を掛けていない場合、「同業他社と比べて過大ではないか」と指摘されるリスクも常につきまといます。シンプルさと引き換えに、根拠の薄さという弱点を抱える方法だと理解しておくべきでしょう。
第2位:1年あたり平均額法|データが武器になるが手間もかかる
2つ目は、同業他社の退職金支給実績を参考にする方法です。業界全体で「勤続1年あたり平均いくら支給されているか」というデータを収集し、自社の勤続年数に掛けて計算します。
客観的な外部データを根拠にするため、税務上の説明はしやすくなります。ただし、適切な比較データを集めるには相応の手間がかかります。業種・規模・地域によって水準がばらつくため、「どのデータを使うか」自体が論点になることも少なくありません。
データの選定を誤ると、かえって根拠が崩れるリスクもあるため、この方法を実務で使いこなすには税理士との緊密な連携が不可欠です。
第1位:功績倍率方式|税務調査で最も認められやすい
最も実績があり、税務調査でも認められやすいのが「功績倍率方式」です。計算式はシンプルです。
最終報酬月額 × 勤続年数 × 役職倍率 = 退職金の適正額
役職倍率の目安は、代表取締役(社長)で最大3.0、専務・常務で2.0前後、平取締役で1.5程度とされています。先ほどと同じ条件で試算してみましょう。
月収100万円 × 勤続20年 × 倍率3.0 = 6,000万円
最終報酬月額法の2,000万円と比べると、3倍の差です。同じ経歴の社長でも、計算方法の選択だけでこれだけの金額差が生まれます。
なぜ功績倍率方式が支持されるかというと、過去の税務訴訟や裁決事例でこの方式が繰り返し判断基準として使われてきたからです。判例の蓄積があるぶん、税務調査の場でも根拠として通用しやすいのです。
事前設計なしでは使えない、という現実
ここで大事なことをお伝えします。功績倍率方式で退職金を損金計上するためには、退職前に退職慰労金規程を整備しておくことが前提です。
退職が決まってから慌てて規程を作っても、「退職金を増やすために後付けで作ったのでは」と疑われます。税務署は規程の整備時期も確認します。理想的には、社長が50代に差し掛かる前後から準備を始めるのがベストです。
規程を整備し、役員報酬の水準を意識した設計をしておくだけで、退職時に受け取れる金額が数千万円単位で変わってきます。「まだ先の話」と思っているうちに、あっという間に退職が現実の話になるのが経営というものです。
功績倍率方式を最大限に活かしたいなら、今期中に退職慰労金規程の整備に着手することをおすすめします。まずは顧問税理士に「退職金の設計、一度見直したい」と一言相談してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。