先日、建設会社を経営する60代前半の社長とお話しする機会がありました。「あと5年で引退したいんだけど、退職金の準備って何もしてないんだよね」という一言が、ずっと頭に残っています。

役員報酬はしっかり受け取っているのに、毎年それなりに税金を払いながら、引退後の原資は手元にほとんど残っていない。そういう社長は、実は珍しくありません。

引退準備と節税を同時に実現できる制度がある

中小企業基盤整備機構が運営する「小規模企業共済」という制度があります。中小企業の経営者や個人事業主が退職金を自分で積み立てるための仕組みで、最大の特徴は「掛金が全額、所得控除になる」という点です。

掛金は月額1,000円から7万円の範囲で自由に設定でき、年間の上限は84万円。この84万円が丸ごと課税所得から差し引かれます。要するに、引退準備をしながら毎年の税金を減らせるという、二重のメリットがある制度です。

所得税率33%の社長で試算すると

少し具体的な数字で見てみましょう。役員報酬が年2,000万円前後の社長の場合、所得税率は33%前後になることが多く、住民税10%を合わせると実効税率はおよそ40〜43%のゾーンに入ります。

月7万円(年84万円)の掛金で計算すると、所得税の節税額が約28万円、住民税の節税額が約8万円、合わせて年間で約36万円の税負担が軽くなります。

言い換えると、84万円を積み立てているのに、実質的な手取りコストは年48万円。残りの36万円は税金として戻ってくる計算です。この「実質コスト削減率」を銀行預金や投資信託で再現しようとすれば、相当なリスクを取らなければなりません。

受け取るときも「退職所得」として優遇される

節税の恩恵は積み立て時だけではありません。給付金を受け取るときにも大きなメリットがあります。

小規模企業共済の受取金は「退職所得」として扱われます。退職所得には「(受取額 − 退職所得控除)× 1/2」という計算式が適用されるため、同じ金額でも給与として受け取るより税負担がはるかに軽くなります。

月7万円を20年間積み立てた場合、元本だけで1,680万円になります。実際には利率(現在年1.0%前後)が加算されるため、受取額はこれより増えます。この1,680万円を退職所得として受け取れば、退職所得控除の効果で課税される金額はかなり圧縮されます。

注意点も正直に伝えておきます

良いことばかり書きましたが、知っておくべき注意点もあります。

ひとつ目は「途中解約のリスク」です。加入から12か月未満で解約すると掛け捨てになります。また、20年未満の任意解約では元本を下回る可能性があります。長期的に積み立て続けることが前提の制度です。

ふたつ目は「会社の経費にはならない」という点です。所得控除の対象になるのは事実ですが、法人の損金(経費)にはなりません。「個人の税負担を減らす仕組み」として理解しておくことが重要です。

みっつ目は加入資格の確認です。法人の代表取締役は加入できますが、会社員は対象外です。また、常時使用する従業員数など一定の要件があります。

「まだ先の話」と思っているうちに時間は経つ

小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構のウェブサイトや、取引銀行・証券会社の窓口から申し込むことができます。手続き自体はそれほど複雑ではありません。

節税効果が最大限に活きるのは、高い税率が適用されている現役期間中です。50代で始めれば、65歳の引退時には相応の原資が育っています。60代に入ってから「もっと早く始めておけばよかった」と後悔しても、時間は取り戻せません。

まだ加入していない方は、今期の確定申告が終わったタイミングで一度、手続きを検討してみてください。それだけで、数十年後の引退後の生活が大きく変わる可能性があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。