先日、60代前半の社長からこんな相談を受けました。「そろそろ引退を考えているんだけど、退職金ってどう準備すればいいの?」と。
話を聞いてみると、会社に役員退職金の積み立ては一切なく、手元にあるのは普通預金だけ。それも「老後に十分かどうか自信がない」と言うんです。長年、会社にお金を入れ続けた結果、自分の引退資金の手当てが後回しになってしまっていました。
これ、実はよくある話です。そして、もっとよくある話が「その制度、知っていれば早く入ったのに…」という後悔です。
年84万円が丸ごと控除になる国の制度
「小規模企業共済」という制度をご存知でしょうか。国が中小企業の経営者のために用意した、いわば「社長のための退職金制度」です。
最大の特徴は、掛金が年間最大84万円まで全額が所得控除になること。経費計上とは少し異なりますが、課税所得から差し引かれるので税負担を直接減らせます。しかも年末調整や確定申告で申告するだけ。手続きは非常にシンプルです。
所得税率33%の社長の場合、住民税(10%)と合わせると実効税率は約43%。年間84万円を掛金として払えば、およそ36万円の税負担が軽くなります。払った掛金の約43%が節税効果として戻ってくるイメージです。
数字で見ると、インパクトがわかる
毎月7万円(年間84万円)を20年間積み立てると、元本だけで1,680万円になります。実際には一定の利率がつくので受取額はもう少し増えますが、それだけの退職金原資が作れます。
さらに節税の累計を考えてみましょう。毎年36万円の節税効果が20年続くと、累計720万円の税金が浮く計算になります。1,680万円の退職金を作りながら、720万円も得をしている。こう考えると、「知らずに引退するのはもったいない」という意味が実感としてわかると思います。
受け取るときも税制上の優遇がある
積み立てた共済金を受け取る際、退職一時金として受け取ると退職所得扱いになります。退職所得は「(収入-退職所得控除)÷2」が課税対象。勤続年数に応じた控除が大きく、普通の給与所得と比べて税負担が大幅に下がります。
積み立て時も受け取り時も税制優遇がある。これが小規模企業共済の最大の強みです。法人で役員退職金を積み立てる方法と迷う方もいますが、小規模企業共済は社長個人の財産として積み立てられるため、会社の業績に左右されずに守られます。
加入前に知っておきたいこと
小規模企業共済に加入できるのは、常時使用する従業員が20名以下(商業・サービス業は5名以下)の中小企業の経営者か個人事業主です。法人の役員であれば、多くの方が対象になります。
注意点をいくつか挙げると、
- 掛金の前払いや後払いはできない(毎月定額の積み立て)
- 加入後12ヶ月未満で解約すると元本割れのリスクがある
- 減額は可能だが、増額には一定のルールがある
つまり、短期間で辞めることを前提にする制度ではありません。長く続けるほど有利になるので、「引退を考え始めたら早めに入る」が正解です。
今日加入すれば、今年の所得控除に使える
まだ加入していないなら、今期中に動き出すことを強くおすすめします。今月加入すれば、今年分の確定申告でそのまま所得控除として使えます。申し込みは中小企業基盤整備機構の公式サイト、または取引のある金融機関の窓口から。難しい審査もなく、書類もシンプルです。
引退後の生活を支えるのは、現役中の積み重ねだけです。使える制度があるなら、知った今日から使い始めるのが一番の節税です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。