先日、こんな相談を受けました。「20年かけて会社を育ててきた。そろそろ引退も考えているんだけど、退職金ってどれくらい税金取られるんだろう」と、製造業を経営する60代の社長からです。
「どうせ税金でごっそり持っていかれる」と思って、退職金の設計を後回しにしている経営者が意外と多いんです。でも、きちんと準備すれば話はまったく変わってきます。
給与で受け取ると「900万円以上が消える」
同じ3,000万円でも、役員報酬として毎年受け取れば、所得税率は30〜40%に達します。健康保険や厚生年金まで含めると、手元に残るのは2,000万円を下回ることも珍しくありません。
一方、役員退職金には「退職所得控除」という強力な優遇税制が使えます。これを使えば、3,000万円の退職金にかかる実効税率を6%台にまで抑えることができます。
同じお金なのに、受け取り方ひとつで税負担が5〜6倍変わる。退職金の設計が「最後の節税」と呼ばれる理由がここにあります。
勤続30年なら、まず1500万円が非課税になる
退職所得控除の計算式は勤続年数によって決まります。
- 勤続20年以下の部分:1年あたり40万円
- 勤続20年超の部分:1年あたり70万円
勤続30年の場合を計算してみましょう。20年分が800万円、残り10年分が700万円で、合計1,500万円が控除額になります。3,000万円のうち1,500万円は丸ごと非課税です。
さらに、退職所得には「課税対象を2分の1にする」という特例もあります。残り1,500万円のうち課税されるのは750万円だけ。これに対する所得税と住民税の合計は約180万円程度になります。
3,000万円受け取って、税負担180万円。実効税率はわずか**6%**です。
退職金の上限を決める「3つの数字」
そもそも役員退職金はいくらまで出せるのか。税務上「不相当に高額」とみなされないための目安として使われる計算式があります。
最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率
功績倍率は一般的に2〜3倍が認められており、代表取締役であれば3.0倍が上限の目安です。最終報酬月額100万円・勤続30年・功績倍率3.0であれば、計算上の上限は9,000万円になります。3,000万円はこの範囲内に十分収まります。
「月額報酬」と「在任期間」が手取りの天井を決める
ここで注意が必要なのが、退職直前の報酬月額です。月額が高いほど計算式の結果も大きくなります。逆に言えば、退職を目前にして報酬を下げてしまうと、退職金の上限も一緒に下がってしまうんです。
勤続年数が長いほど控除額も増えます。「引退を考え始めた」という段階こそ、今すぐ設計を始める価値があります。
また、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)などと組み合わせることで、退職金の原資を積み立てながら法人税負担も下げるという二重の節税効果を狙う設計も可能です。
「退職の実態」だけは絶対に整えておく
ひとつだけ注意点があります。退職金は「実態のある退職」に対して支払われるものです。代表取締役を退いて会長に就任したケースでも、実質的に経営の実権を握り続けていると判断されれば、税務調査で否認されるリスクがあります。
退職の実態をしっかり整えること、職務内容の変化を書面や議事録で残しておくことが、退職金節税の大前提です。ここを曖昧にしたまま多額の退職金を支払っても、後から全額を否定されてしまいます。
引退を3年後・5年後に考えているなら、今期から報酬設計と退職金の試算を始めておくことをおすすめします。退職金は「その時に考える」では遅く、準備の有無で手取りに数百万円の差が出ることも珍しくありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。