「うちの自社株って、相続が起きたらいくらになるんですかね?」

先日、売上5億円規模の部品メーカーを経営する60代の社長から、ふとした会話の流れでそう尋ねられました。決算書の帳簿を確認しながら「資産は1億ちょっとだから、まあ大丈夫かな」とおっしゃっていました。私はすぐに「それ、本当に1億円のままで評価されると思われていますか?」と聞き返しました。

実は、これが相続で会社を潰してしまう社長の典型的なパターンです。

相続対策を真剣に考えている経営者は、まだ少数派です。「自分はまだ若い」「今は業績が伸びている時期だから」と先送りにしているうちに、気づいたときには手が打てなくなっていた、というケースを何度も見てきました。今回は、相続で会社を危機に追い込んでしまった社長に共通する3つのパターンをお伝えします。

第3位:自社株の「本当の価値」を知らなかった

多くの社長が誤解しているのが、自社株の評価額です。

「帳簿上の純資産は1億円だから、相続税もそれほどかからないはず」と思っていませんか?これが大きな落とし穴になります。非上場の中小企業の株式は、相続税の計算では「純資産価額方式」や「類似業種比準方式」で評価されます。

帳簿価格が1億円の会社でも、含み益のある不動産を保有していたり、利益が長年積み上がっていたりすると、純資産価額方式での評価が3億〜5億円になることは珍しくありません。帳簿と税法上の評価額が、まったく別物になるのです。

以前、食品卸を経営していた社長が亡くなった際、ご遺族は「そんなに株に価値があるとは思っていなかった」と絶句されていました。相続税の通知書を受け取って初めて事の重大さに気づいたものの、そこからできることはほとんどありませんでした。相続税の対策は、評価額を下げた状態で資産を移転することが基本です。評価額が何億円にもなってから動こうとすると、打てる手が極端に少なくなります。

第2位:納税資金を準備していなかった

評価額の話をしましたが、では「相続税はいつまでに払うのか」を正確に知っている経営者がどれほどいるでしょうか。

答えは、相続開始から原則10ヶ月以内の現金一括払いです。

これが非常に厳しい条件になります。中小企業オーナーの資産の多くは自社株や事業用不動産です。現金が手薄な場合、相続税を支払う原資がなく、最終的に会社を売却するか解散するかという選択肢しか残らないケースがあります。

「分割払いできないの?」と思われる方も多いのですが、延納・物納には厳しい要件があり、自社株での物納はほぼ認められていないのが現実です。相続税の納税資金は、現金で手当てしておくことが鉄則になります。

生命保険を活用した納税資金の確保や、計画的な役員報酬・退職金の設計など、対策の手段はあります。ただしいずれも時間がかかります。突然の相続で慌てて動こうとしても、すでに間に合わないことが多いのです。

第1位:対策を先送りにし続けた

そして、最も多くの会社を危機に追い込んでいるのが、これです。

「いつかやろう」「まだ時間がある」と思っているうちに、タイムリミットが静かに迫っています。事業承継税制には「特例措置」という非常に強力な制度があり、要件を満たせば自社株にかかる贈与税・相続税を100%納税猶予——実質的に免除——できます。

ところが、この特例措置の申請期限は2027年12月31日です。特例承継計画を税務署に提出し、後継者へ自社株を実際に移転する手続きを踏む必要があるため、申請から実行まで数年かかることも少なくありません。今から動いても、ギリギリのタイミングです。

生前に少しずつ後継者へ株式を移転しておくほど、相続発生時の評価額が下がり、税負担は大幅に軽くなります。10年かけて計画的に移転するのと、突然の相続で慌てて対応するのとでは、負担額が何倍も違ってくることがあります。「まだ先の話」と思っているうちが、最も対策を打ちやすい時期です。

動けるうちに動く、それだけです

相続対策の本質はシンプルです。「早く動いた人が得をする」構造になっています。

会社を危機に追い込んだ社長の共通点は、「知らなかった」か「先送りにした」か、そのどちらかでした。逆に言えば、今この記事を読んでいるあなたには、まだ対策できる時間があります。

まずは自社株の評価額を専門家に試算してもらうことから始めてください。それだけで、対策の優先度がガラッと変わるはずです。2027年末の特例期限まで、残り時間はそれほど多くありません。今期中に一度、事業承継の専門家に相談することをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。