先日、ある社長からこんな話を聞きました。「退職金を受け取って半年後に税務調査が入った。功績倍率が高すぎると言われて、一部が否認されてしまった」と。
役員退職金は、使い方次第で会社に大きな節税効果をもたらす制度です。ただ、その分だけ税務署の目も厳しい。実は、調査が入った社長たちには明確な「共通パターン」があります。今回はそのランキングをご紹介します。心当たりがある方は、ぜひ早めに専門家に相談してみてください。
第3位:功績倍率を3.5倍以上に設定した社長
まず、役員退職金の計算式をおさらいします。
退職金 = 最終報酬月額 × 功績倍率 × 在任年数
この中の「功績倍率」、実務の世界では代表取締役で3.0倍が上限の目安とされています。これは判例や税務実務の中で広く認知されているラインです。
ところが「会社への貢献度が高かったから」「少しでも多く受け取りたいから」と3.5倍、4.0倍に設定する社長がいます。
税務署はこの数値を、同業種・同規模の他社と必ず比較します。その比較で「不相当に高額」と判断されれば、超過した部分は過大退職金として損金不算入になります。つまり、その分の法人税が追徴されます。
「3.0倍という数字が慣行として定着しているなら、せめてそのラインを守る」——退職金設計の出発点はここにあります。
第2位:在任年数を水増しした社長
退職金の計算式のもうひとつの変数、「在任年数」にも注意が必要です。
在任が長ければ長いほど退職金の金額が増えるため、実際よりも就任時期を遡らせて記載するケースがあります。でも、これが非常に危険です。
税務署が参照できる証拠は山ほどあります。法人登記簿の役員変更履歴、雇用保険の被保険者記録、過去の確定申告書、源泉徴収票……。これらを突き合わせて矛盾が見つかった瞬間、調査官の目の色が変わります。
「実際は就任13年のはずが、退職金計算では15年として計上していた」——このような事例では、在任年数の部分だけでなく、退職金全体の信憑性を疑われることにもなります。数字の整合性は、どこから見ても説明できるようにしておくことが大切です。
第1位:退職後も実質的に経営を続けた社長
これが最も件数が多く、かつ最も深刻な結果を招くケースです。
後継者への交代後も、「少し手伝っているだけ」「相談に乗っているだけ」という感覚で経営に関与し続ける社長がいます。しかし税務署は、退職の実態を徹底的に検証します。
チェックポイントは多岐にわたります。名刺に「相談役」「顧問」の肩書きはないか。取引先や金融機関とのやり取りに本人が登場していないか。来社の頻度、メールや電話の記録、給与以外の報酬の支払いがないか……。
こうした証拠が積み重なると、「これは実質的な退職ではない」と判断され、退職金が全額否認されます。追徴税額が1,000万円を超えるケースも実際に起きています。
退職後の関わり方は、退職金を支払う前に明確なルールとして文書化しておく必要があります。顧問契約として別途適切な報酬を設定する、関与できる業務の範囲を限定するなど、第三者から見ても「本当に退任している」と分かる形を作ることが不可欠です。
調査に耐える退職金設計の3原則
ここまでお話した内容を整理すると、ポイントは3つです。
- 功績倍率は3.0倍以内を原則とし、超える場合は業績や特殊性の根拠を文書に残す
- 在任年数は登記・申告書と完全に一致させる。端数も正確に
- 退職後の関与を完全に断ち切るか、別途顧問契約として透明に処理する
役員退職金は、金額が大きいだけに設計ミスのダメージも大きい。一度支払ってしまった後に「やり直し」は利きません。
後継者への引き継ぎを考え始めたタイミングが、退職金の設計を税理士と一緒に固め始める最適な時期です。「まだ先の話」と思っているうちに、気づけば功績倍率や在任年数の設定が難しくなっていた——という話は珍しくありません。今期中に一度、退職金規程と実態の整合性を確認してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。