先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「10年以上かけて保険で退職金を積み立ててきたのに、思っていたより手元に残らなくて……」
毎月それなりの保険料を払い続けて10年以上。「これで引退時にはまとまったお金が手に入る」と信じていた社長が、いざ手続きを進めると思いがけない損に気づく——こうしたケースが後を絶ちません。
生命保険を退職金の積立に活用する手法は、節税効果があることで多くの経営者が取り入れています。ただし、「保険料を払い続けていればOK」ではないのが、この手法の難しいところです。今回は、よくある後悔をランキング形式でお伝えします。
第3位:解約返戻率のピーク年を知らずに早期解約
保険の解約返戻金は、毎年一定の割合で増え続けるわけではありません。多くの保険には「ピーク年」が設定されていて、そこに向かって返戻率が上がり、その後は下がる構造になっています。
10年型の保険なら、10年目に返戻率がピークを迎えるように設計されているケースが多い。ところが「資金が必要になった」「業績が厳しくなった」という理由で8年目に解約してしまうと、返戻率は大幅に下回ることになります。
8〜9年目での早期解約で50〜100万円のマイナスになるケースも珍しくありません。急な事情でピーク前に解約せざるを得なくなる——これが3位の後悔です。ピーク年は契約時の設計書に記載されているので、まず確認してみてください。
第2位:引退計画と保険のピーク年齢がズレていた
これはより構造的な問題です。保険によっては「契約者の年齢が◯歳のときに返戻率がピーク」という設計のものがあります。
返戻率95%という高水準のピークが、引退予定時期より1〜2年ずれていた——それだけで実損が300万円を超えるケースがあります。「1〜2年くらい誤差の範囲でしょ」と思うかもしれませんが、退職金クラスの積立額になると、わずかな返戻率の差が数百万円単位の話になってきます。
こうした失敗を防ぐには、「いつ引退するか」という経営計画と「いつが保険のピークか」という保険設計を、最初から連動させておくことが必要です。契約から何年も経って「そういえばうちの保険って……」と確認する頃には、すでに調整が難しくなっていることも多い。
保険を契約する段階で、引退時期の目安を保険会社や税理士と共有しておくことが、何より大切です。
第1位:退職金の受け取り方を事前に設計していなかった
1位はここです。最も深刻で、かつ最も多い後悔です。
退職金には「退職所得控除」という強力な非課税枠があります。勤続年数に応じて計算され、たとえば勤続30年なら1,500万円前後が控除の対象になります(勤続20年超の部分は1年につき70万円)。この控除をフルに活用できれば、退職金の税負担はゼロ、あるいはごくわずかで済む可能性があります。
ところが、受け取り方のタイミングや金額の設計を間違えると、「本来は税金ゼロだったはずなのに、数十万円を払ってしまった」という事態になります。受け取り方の設計というのは、具体的にはこういった話です——いつ退職金を支払うか、役員退職慰労金として支払う場合の適正額はいくらか、保険の解約返戻金をどう充当するか。
これらを事前に税理士と詰めておかないまま「引退するから保険を解約して退職金を払った」だけでは、控除が活かせないケースがあります。顧問税理士への相談が引退の半年前だった、というのは正直遅すぎます。
今すぐ確認してほしい3つのこと
保険退職金を活用している社長に、今すぐ確認していただきたいことがあります。
- 契約している保険の返戻率ピーク年はいつか
- 引退予定時期とピーク年は一致しているか
- 退職所得控除の試算を税理士とすでに行っているか
この3つのうち一つでも「わからない」「まだやっていない」があれば、早めに顧問税理士に相談することをおすすめします。
引退は一度しかありません。「なんとなく保険に入っていた」だけでは、せっかく積み立ててきたお金を十分に活かせない可能性があります。今期中に一度、契約時の設計書を引っ張り出して、ピーク年と自分の引退計画を照らし合わせてみてください。それだけで、数百万円の差が生まれることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。