先日、ある印刷会社の社長から「今年で会社をたたもうと思う」という連絡が来ました。創業35年、お子さんへの承継も難しく、いよいよ決断したとのこと。ただ、話を聞いていくうちに「これ、出口で数百万円損しそうだな」と感じる点がいくつかありました。
2026年4月、新しい税制改正が施行されました。廃業や事業承継を検討しているタイミングと重なる社長にとっては、知っているかどうかで手残りが大きく変わります。今回は「やらかしやすい出口戦略のミス」を3つ、具体的な金額感とともにお伝えします。
3位:賃上げ促進税制を知らないまま廃業する
廃業や承継を決めると、「もう従業員の給与を上げても意味がない」と感じる社長は少なくありません。でもそれ、出口タイミングでは大きな勘違いになりえます。
賃上げ促進税制は、前年比で給与総額を1.5%以上増やすと、増加額の最大45%を法人税から直接控除できる制度です。「直接控除」がポイントで、税率をかけ算する節税と違い、控除額がそのまま税負担の減少につながります。
たとえば、給与総額が年間1億円の会社が1.5%(150万円)賃上げした場合、控除可能額は最大67万円超。廃業の最終年度でも、要件を満たせば適用できます。
「もうすぐ廃業だから」という理由で賃上げを見送るのは、数百万円をテーブルに置き去りにしているのと変わりません。廃業スケジュールが決まったら、最終年度の給与設計もあわせて確認してみてください。
2位:少額減価償却特例の期限切れを見落とす
中小企業には「30万円未満の備品を全額即時経費化できる」という特例制度があります。パソコンや工具、業務用の備品など、日常的に活用している社長も多いでしょう。
ただ、この特例は2026年3月末で終了しています。
4月以降に同じ買い物をしても、通常の減価償却(4〜5年で分割)しか認められません。たとえば、20万円のノートPCを5台まとめて購入した場合(合計100万円)、特例があれば全額その年の経費。特例なしなら4年間に分散です。この差は決算に直接響きます。
廃業・承継を控えた会社なら、必要な設備投資や備品の購入を「3月末までに前倒しできないか」と考える必要がありました。すでに4月を過ぎているなら、代わりに活用できる即時償却制度がないか、顧問税理士に確認してみてください。
情報収集と購入タイミングの調整だけで防げる失敗なので、「知らなかった」では本当にもったいないケースです。
1位:役員退職金の功績倍率を低く設定してしまう
これが最も多く、かつ損失が大きいパターンです。
役員退職金の金額は、以下の計算式で決まります。
最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率
税務上は、代表取締役の功績倍率は一般的に3.0が目安とされています。ところが、税理士にきちんと相談せず「なんとなく2.0にした」という事例が後を絶ちません。
月額報酬100万円、勤続30年の代表取締役で比べると、差がよくわかります。
- 功績倍率3.0 → 退職金 9,000万円
- 功績倍率2.0 → 退職金 6,000万円
差額は3,000万円。役員退職金には退職所得控除と1/2課税の恩恵があるため、通常の役員報酬に比べて圧倒的に手取りが増えます。この倍率設定を間違えると、永遠に取り返せません。
「退職金の設計はまだ先の話」と思っている社長ほど、気づいたときには手遅れになっています。承継・廃業のスケジュールが頭に浮かんだ瞬間から、税理士と一緒に設計を始めるのが理想です。
出口は「後でやろう」が一番高くつく
税制改正のたびに、知っているかどうかで手残りが数百万円変わる時代になっています。特に今回紹介した3つは、いずれも「タイミングを逃したらやり直し不可」のものばかりです。
廃業や承継を考えはじめたなら、まず顧問税理士に「出口を想定した節税チェック」を依頼してみてください。「まだ決まってないけど相談していいですか?」で十分です。早めの一言が、最終的な手残りを大きく左右します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。