先日、顧問先の社長からこんな一言をもらいました。「今年も報酬は据え置きにしました」。思わず聞き返しました。「それ、何年同じ金額ですか?」
役員報酬は、事業年度開始から3ヶ月以内——多くの会社では4月中——しか変更できません。この時期を逃すと、丸1年間は原則として修正できないのが税務上のルールです。
「毎年の慣行だから」「顧問税理士に任せているから」と何となく据え置きにしている社長は少なくありませんが、実はこの習慣が年間数十万〜100万円以上の損につながっているケースがあります。
よくある見直し漏れを、損失の大きい順にお伝えします。
3位:所得税の「境界線」を意識せずに設定している
所得税は累進課税なので、ほんの少しの金額の差で適用税率が変わります。年収900万円台と1,000万円超では課税ゾーンが変わり、その境界をまたぐと年間30万円以上の差が生じることがあります。
「報酬を少し下げたら手取りが増えた」という話、実際に起きます。税率の壁を知らないまま設定していると、払わなくてもよかった税金を毎年払い続けることになります。
年に一度、今の報酬額が課税の境目とどう関係しているかを確認する習慣をつけるだけで、手取りが変わることがあります。
2位:社会保険料を「払いすぎ」たまま放置している
社会保険料は報酬額に比例して増え、しかも法人と個人で折半するため、設定を高くしすぎると会社も社長本人も双方の負担が膨らみます。
適正な報酬帯よりも月額にして約8万円(年間100万円)高く設定しているだけで、社会保険料の差額だけで年間60万円前後の損失になることがあります。「報酬が高い=豊かになる」とは必ずしも言えないのが、社会保険料の見えにくい怖さです。
毎年、手取り額と社会保険料のバランスをシミュレーションしておくことで、同じ給与総額でも実質的な可処分所得を増やせる場合があります。税理士と社労士が連携して試算しているかどうか、一度確認してみてください。
1位:退職金の「計算基礎」がずれたまま10年以上経っている
これが最もインパクトが大きく、そして最も見落とされているポイントです。
役員退職金の計算式は「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」です。つまり、退職時の月額報酬が、退職金全体の計算基礎になります。
勤続20年・功績倍率3倍の社長を例に考えてみましょう。月額報酬が100万円なら退職金は6,000万円。80万円なら4,800万円。差額は1,200万円です。毎年の所得税の節約額とは比べものにならないほどのインパクトです。
「節税のために報酬を抑えた」まま長年放置すると、退職時に1,000万円単位の差として現れます。短期の節税と長期の退職金設計は、切り離して考えてはいけません。今の設定が10年後にどう響くか、一度試算してもらうことを強くおすすめします。
4月の1つの判断が、10年後の結果を変える
役員報酬は「今期の節税額」だけで考えると失敗します。所得税のゾーン、社会保険料の最適化、そして将来の退職金設計——この3つを同時に見据えて設定するのが本来のあり方です。
4月を過ぎてしまうと、あとは指をくわえて1年待つしかありません。「今年はまあいいか」という先送りの積み重ねが、気づいたときには100万円、1,000万円単位の差になって返ってきます。
まだ今期の報酬を検討中なら、今月中に税理士へ試算を依頼してみてください。数字を目の前にして初めて「変えるべきだった」と気づく社長が、毎年後を絶ちません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。