先日、顧問先の社長からこんな連絡が届きました。「退職金を払った翌年に税務調査が入って、数百万円の追徴が来てしまった」という内容でした。
退職金は、うまく活用すれば数千万円単位の節税になる、法人税対策の中でも最強クラスの手法です。だからこそ、税務署も真剣にチェックしてきます。何十年もかけて育てた会社の集大成として受け取る退職金が、追徴課税で終わるのは避けたいですよね。
今回は、実際に税務調査を呼び込んでしまった社長たちに共通するパターンを、ランキング形式でお伝えします。
第3位:計算根拠を書き残していない社長
役員退職金には、適正額の計算式があります。「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」——この式を使うこと自体は多くの社長が知っています。問題は、「計算書を残していない」ことです。
税務署の調査官が来たとき、真っ先に聞かれるのが「どういう根拠でこの金額にしたのか」という点です。口頭で「3,000万円が相当だと思った」では通りません。計算根拠を文書化しておくことが、最低限の防衛ラインになります。
具体的には、株主総会・取締役会の議事録、退職金の計算明細書、同業他社の事例などの根拠資料——これらを揃えているだけで、調査官の態度がまったく変わります。書類一枚の差が、数百万円の追徴の有無に直結することがあるのです。
第2位:功績倍率を3.0倍超に設定した社長
功績倍率とは、その役員が会社にどれだけ貢献したかを数値で表したものです。代表取締役の場合、税務上の目安は3.0倍までとされています。
「うちの社長は本当に会社を大きくしたから4.0倍にしよう」という気持ちはよくわかります。ただ、過去の税務調査や裁判例では、3.0倍を超えた部分が「不相当に高額」として否認されたケースが数多くあります。
たとえば、最終報酬月額150万円・勤続30年の社長に4.0倍を適用すると、退職金は1億8,000万円になります。3.0倍なら1億3,500万円。この差額4,500万円が否認されると、法人税・所得税の両方に影響が及び、追徴税額が1,000万円を超えるケースも珍しくありません。
功績倍率は、同業他社や過去の裁判例を参考にした根拠を用意した上で、3.0倍以内に収めるのが現実的な着地点です。「高い倍率ほど得」という発想が、かえって大きなリスクを招きます。
第1位:退職後も実質的に経営を続けた社長
これが最も深刻なパターンです。形式的には「退職した」ことにして退職金を受け取りながら、実態は相談役・会長として実質的な経営判断を継続しているケースです。
税務署はここを徹底的に調べます。名刺に「代表取締役」が残っていないか、銀行との取引で代表者として行動していないか、社内の稟議書に決裁者として名前があるか——様々な角度から「本当に退職したのか」を確認してきます。
実態が伴わない退職と判断されると、退職金が全額否認されます。3,000万円受け取っていれば、3,000万円がまるごと損金に認められない、という最悪のシナリオです。名刺の肩書きを変えるだけでは不十分で、業務内容・報酬額(大幅に減額)・出勤頻度——すべてにおいて「実態としての退職」を作り込む必要があります。
税務調査を呼ばないための3点チェック
整理すると、こうなります。
- 退職金の計算根拠と議事録は必ず書面で残す
- 功績倍率は代表取締役でも原則3.0倍以内に抑える
- 退職後は業務・肩書き・報酬すべてで「実態」を作る
退職金は「退職するとき考えればいい」と思いがちですが、実は1〜2年前から設計を始めるのが理想です。直前の駆け込み設計は、税務署に不自然と映るリスクが高まります。そして何より、書類の準備や経営の引き継ぎには、それだけの時間が必要です。
「そろそろ退職金を考えたい」と頭をよぎった社長は、まず顧問税理士に相談するタイミングだと思ってください。早めに動くほど、選択肢が広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。