先日、顧問先の社長からこんな連絡がありました。「来月、会社を後継者に譲って自分は退職するつもりなんですが、退職金の手取りって今からでも増やせますか?」

結論から言うと、退職のタイミングを1ヶ月ずらすだけで、手取りが数十万円変わることがあります。退職金の節税は「もらう金額」よりも「控除額をどう設計するか」が肝心なのです。

退職所得控除の計算式、ご存知ですか?

退職金には、給与と違う独自の優遇税制があります。まず「退職所得控除」という大きな非課税枠があり、その後に残った金額を2分の1にしてから課税されます。

計算式はこうです。

課税対象 = (退職金 − 退職所得控除額)× 1/2

退職金が3,000万円でも、控除を最大限使えば課税対象をぐっと圧縮できます。逆に言えば、控除額の計算を間違えるだけで数十万〜数百万円の差が生まれてしまう。

控除額の計算式は勤続年数によって異なります。

  • 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
  • 勤続20年超:800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)

20年ちょうど退職した場合、控除額は800万円。では21年で退職したら? 800万円 + 70万円 = 870万円になります。たった1年の差で70万円変わるのです。

「1年未満は切り上げ」という見落としがちなルール

ここで多くの方が見落とすポイントがあります。勤続年数の計算には「1年未満の端数は切り上げ」というルールがあるのです。

具体的に言うと、勤続19年1ヶ月で退職した場合、端数を切り上げて「20年」として計算できます。つまり控除額は800万円。19年ちょうどで退職したときの760万円と比べると、たった1ヶ月の差で40万円違ってくるわけです。

同じ理屈で、20年1ヶ月なら「21年」として計算できるので、控除額は870万円になります。20年ちょうどの800万円と比べると70万円増える。この1ヶ月を惜しむかどうかで、退職金の手取りは大きく変わります。

実際の数字で確認してみましょう

仮に退職金が2,000万円、勤続年数が19年11ヶ月というケースで考えてみます。

そのまま退職した場合(19年11ヶ月 → 切り上げで20年)

  • 退職所得控除:800万円
  • 課税対象:(2,000万円 − 800万円)× 1/2 = 600万円

次に、1ヶ月待って20年1ヶ月で退職した場合(切り上げで21年)を見てみます。

1ヶ月待って退職した場合(20年1ヶ月 → 切り上げで21年)

  • 退職所得控除:870万円
  • 課税対象:(2,000万円 − 870万円)× 1/2 = 565万円

課税対象が35万円減るので、税率20%でざっくり計算しても7万円の節税になります。退職金の金額が大きくなるほど、この差は広がります。

注意が必要なケース:役員と使用人の兼任期間

勤続年数の計算でもう一つ気をつけたいのが、役員と使用人の兼任期間です。

「従業員として10年、役員として15年勤めた」という場合、通算して25年として計算できるのが原則です。ただし、分けて計算したほうが有利になるケースもあります。退職のタイミングや、役員退職金と従業員退職金を分けて支給するかどうかによって、最適な処理が変わってきます。

また、過去に一度退職金を受け取っている場合は、前回の勤続期間との重複分が控除額から差し引かれる「前年以前の退職金との調整」というルールもあります。こちらは見落とすと申告誤りになるので要注意です。

退職のタイミングは「節税の設計図」

退職金の節税で大事なのは、支給額の設定だけではありません。「いつ退職するか」というタイミングも同じくらい重要です。

1ヶ月の差で控除額が跳ね上がるなら、後継者への引き継ぎスケジュールと合わせて、退職日を意識的に設定する価値があります。特に節目の年数(20年、30年など)の手前に退職を検討している方は、一度きちんと試算してみることをおすすめします。

退職金の設計は、法人の損金計上タイミングとも絡む話なので、できれば退職の1〜2年前から顧問税理士と一緒に計画を立てておくのが理想です。「もう退職が来月なんですが…」という相談も少なくありませんが、早めに動くほど選択肢が広がります。

退職金の計算は、ちょっとしたルールを知っているだけで大きな差が生まれます。「損しないための節税」の第一歩として、ぜひ自分の勤続年数を一度確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。