先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「毎月それなりの役員報酬をもらってるのに、手元にぜんぜん残らないんですよね」

年商3億円、創業10年の製造業の社長です。役員報酬は月100万円。でも所得税・住民税・社会保険料を合わせると、実質の手取りは60万円台。「会社はそこそこ利益が出ているのに、なんで自分はこんなに苦しいんだろう」と首をかしげていました。

その感覚、実はとても正常です。役員報酬というのは、法人から個人へお金を移す方法の中で、税負担がもっとも重い手段のひとつだからです。

今回は、同じ金額を会社から受け取るにしても、「もっと税金が安くなる方法」を3つ、税負担が低い順にご紹介します。


第3位:出張旅費規程を整備して「日当」を非課税で受け取る

まず手軽に始められるのが、出張日当の活用です。

会社が社内規程として「旅費規程」を定めると、出張時に支払う日当を経費として損金に落としつつ、受け取った役員側は非課税という二重のメリットが生まれます。所得税も社会保険料もかからない、いわば「完全手取り」のお金です。

日当の相場は役職や出張先によって異なりますが、社長クラスで1日1万円前後に設定している会社も多く、月に4〜5回の出張があれば月4万円前後、年間で48万円ほどを非課税で受け取れる計算になります。

ただし、あまりに高額な日当は税務調査で問題になるケースがあります。同業他社の水準や、国家公務員の旅費規程を参考にしながら「常識の範囲内」で設計することが重要です。まだ旅費規程を整備していない会社は、今期中に作っておくだけで節税効果がすぐに出始めます。


第2位:養老保険を法人契約で活用する「半額損金スキーム」

次に中長期の視点で活用したいのが、法人契約の養老保険です。

養老保険には、保険料の半額を会社の損金に算入しながら、満期時の保険金を個人(役員)が受け取れる仕組みがあります。会社は法人税を減らしながら積み立てを進め、個人は将来まとまった資金を手にする——という設計です。

さらに効果的なのが、退職金との組み合わせです。満期と退職のタイミングを合わせることで、受け取り側の税負担を大きく下げることができます。退職所得には手厚い優遇税制があるので(後述します)、同じ金額でも給与で受け取るより手取りが格段に増えます。

注意点は、契約内容によって損金算入ができないケースもあること。また保険会社や商品によって設計が異なるため、導入前に税理士と保険代理店の両方に相談することをおすすめします。


第1位:役員退職金——法人から個人への資金移動で最強の手段

正直、この1位は別格です。

役員退職金には、日本の税制上もっとも手厚い2つの優遇が同時に適用されます。ひとつは「退職所得控除」、もうひとつは「2分の1課税」です。

退職所得控除は、勤続年数が長いほど大きくなります。勤続20年以下は1年あたり40万円、20年超は1年あたり70万円が控除されるため、勤続30年なら控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円を超えます。

そして2分の1課税。控除を引いた残りの金額をさらに半分にした額に、所得税率をかけるという計算です。つまり実質的な課税ベースが非常に小さくなる。

給与として毎月受け取っていれば最高税率55%(所得税+住民税)が適用されることもある金額が、退職金として受け取れば実効税率が10%台になるケースも珍しくありません。「知らずに報酬だけで受け取り続けた」社長と「退職金を計画的に設計した」社長では、同じ会社の利益でも手取りに数百万円、場合によっては1,000万円以上の差がつきます。

もちろん、退職金はその場限りの一発勝負なので、設計を間違えると後から取り返せません。金額の根拠となる「功績倍率」の設定や、みなし退職のタイミングなど、税理士と綿密に計画を立てることが前提です。


役員報酬「だけ」に頼るのをやめる、という発想

多くの社長は、会社から受け取るお金=役員報酬、という思い込みを持っています。でも実際には、今日ご紹介した3つのように、税制上の優遇を活かして「別のルート」からお金を受け取る方法がいくつもあります。

旅費規程はすぐに始められる。養老保険は中期的な積み立てに使える。そして退職金は、会社の締めくくりに向けた最大の節税機会です。これら3つを組み合わせることで、役員報酬だけに頼るより大幅に手取りを増やせる可能性があります。

まだ旅費規程を整備していないなら、今期中に着手してみてください。たった1つの社内規程を作るだけで、年間数十万円の節税が現実になります。退職金の設計はまだ先のことと思わずに、創業5年を超えたあたりから税理士と一緒にシミュレーションを始めておくのが理想的です。

手取りを増やすために、売上を伸ばすことだけを考える必要はありません。受け取り方を変えるだけで、あなたの財布は確実に厚くなります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。