先日、複数の会社を経営するある社長からこんな相談を受けました。

「2社から退職金を受け取る予定なんですが、普通にもらえばいいですよね?」

その一言に、思わず「ちょっと待ってください」と返してしまいました。実は、複数の法人から退職金を受け取るとき、何も考えずに進めると、本来払わなくていい税金をごっそり持っていかれるケースが珍しくないのです。

今回は、グループ会社や複数法人を持つ社長が絶対に知っておきたい「役員退職金の3つの落とし穴」をお伝えします。


落とし穴③:同じ年に受け取ると控除が「重なって使えない」

退職金には「退職所得控除」という非常に強力な控除があります。勤続20年までは1年あたり40万円、20年超は1年あたり70万円が控除されるため、長く勤めた経営者ほど節税効果が大きくなる仕組みです。

ところが、同じ年に複数の会社から退職金を受け取る場合、この控除を単純に「2倍」使えるわけではありません。同一年内に複数の退職所得がある場合、控除額は通算して計算されるため、それぞれの法人で満額の控除を使い切ることができなくなってしまいます。

結果として、「2社からもらえてラッキー」どころか、1社ずつ時期をずらして受け取った場合と比べて、手取りが数百万円単位で変わってくることもあるのです。


落とし穴②:グループ会社で「同時に役員」だった期間は1回しかカウントされない

これは特にグループ経営をされている社長に見落とされがちなポイントです。

退職所得控除の計算のベースになる「勤続年数」は、複数法人で同時に役員を務めていた期間については、重複してカウントすることができません。たとえば、A社に10年、B社に8年在籍していたとしても、そのうち7年間が重複していれば、実質的に使える勤続年数は合計11年(10年+8年-7年)になってしまいます。

「2社分の退職金だから控除も2社分」と思っていたら、実際の控除額は想定の半分以下だった——こういうケースは本当によく起きます。会社を設立してから何年も経つと、どの期間が重複しているか自分でも把握しづらくなるので、早めに整理しておくことをおすすめします。


落とし穴①(最重要):受け取る「順番」を間違えると税額が跳ね上がる

3つの中で最も影響が大きいのが、この「支給順序」の問題です。

複数法人から退職金を受け取る際、先に支給する法人・金額の組み合わせによって、課税される退職所得の計算結果が大きく変わります。退職所得の計算では「先に受け取った退職金の情報」が後の計算に影響を与えるため、順番が逆になるだけで、最終的な税負担が数百万円単位でズレることがあるのです。

たとえば、退職金の少ない法人から先に受け取るか、多い法人から先に受け取るかで、控除の使い方が変わり、課税される金額が変動します。「どちらが得か」は勤続年数・退職金額・各社の状況によってまったく異なるため、「これが正解」という一律の答えはありません。必ずシミュレーションをしてから決めることが必要です。


結局、何をすればいいのか

まとめると、複数法人から退職金を受け取るときに意識すべきポイントはこの3つです。

  • 同じ年に複数の退職金を受け取ると、控除が「食い合う」リスクがある
  • グループ会社での役員兼務期間は、勤続年数の重複として控除が減る
  • 支給する順番・金額の設計が、節税額を大きく左右する

退職金は、経営者にとって最後の大きな節税チャンスとも言われます。適切に設計すれば、退職所得控除と2分の1課税の組み合わせで、給与や賞与と比べて圧倒的に手取りが多くなります。それだけに、設計ミスのダメージも大きい。

もし近い将来、グループ会社の整理や事業承継を考えているなら、退職金の支給設計は今から税理士と一緒に組み立てておくのが賢明です。「そのときになってから考える」では間に合わないことも多いので、在任中のうちに一度しっかり確認しておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。