先日、従業員30人ほどの製造業を営む社長から、こんな連絡が入りました。

「税務調査が入って、自社株の評価額が当初の3倍近いと言われた。追徴課税が数千万円になりそうで、頭が真っ白です」

自社株の評価は、相続や贈与のタイミングで突然表面化します。そして「うちは小さいから関係ない」と思っていた社長ほど、調査官の指摘に言葉を失うことが多いのです。

税務調査の4割は「資産税」が絡んでいる

実は、中小企業に対する税務調査のうち、約40%が資産税に関連した内容と言われています。そのなかでも特に指摘件数が多いのが、自社株の評価ミスです。

法人税の調査では売上や経費の計上時期が問われますが、自社株の調査で問われるのは「株価の計算方法が正しいか」という点。計算の前提が少しズレるだけで、評価額が数千万円単位で変わることもあります。

税務署は、評価額を低く抑えようとする操作に対して、年々目を光らせています。

狙われやすい落とし穴① 直前3期の利益

自社株の評価方法のひとつに「類似業種比準方式」があります。上場企業の株価を参考にしながら、自社の配当・利益・純資産を比較して計算するやり方です。

この計算では、直前3期分の利益が大きく影響します。そのため、評価を下げたい年だけ経費を集中させて利益を圧縮するケースが後を絶ちません。

税務署はこの「利益の急激な変動」に敏感です。評価直前の期だけ利益が極端に下がっていると、「意図的な操作では?」と疑いの目が向けられます。数期分の損益を並べたとき、不自然な谷があれば、それだけで調査の対象になりやすくなります。

狙われやすい落とし穴② 土地・有価証券の時価評価

純資産価額方式で株価を計算するとき、会社が持つ資産を「時価」で評価し直す必要があります。ここで見落とされがちなのが、土地と有価証券の時価です。

帳簿に載っている金額(簿価)は、何十年も前に取得したときの価格かもしれません。都市部の不動産であれば、取得時の3倍・5倍になっていることも珍しくないのです。

「帳簿価格で計算していた」というだけで、評価額が大幅に過小申告になるケースがあります。税務署側は路線価や市場価格をもとに独自に試算しているので、簿価ベースで低めに出した評価額との差は一目でわかります。

狙われやすい落とし穴③ 類似業種の選定

類似業種比準方式では、自社の事業内容に近い「業種目」を国税庁が公表している区分から選ぶことになります。この業種の選び方が、実はかなり評価額に影響するのです。

同じ製造業でも、食品・金属・電気機器では参照する上場企業の株価が異なります。少しでも株価の低い業種を選べば評価が下がるため、意図的に有利な業種を選ぶ操作が起きやすい箇所でもあります。

税務署は「事業実態と業種目が一致しているか」を実地調査や決算書から確認します。売上の内訳や取引先の業種と、選んだ業種目がかみ合っていなければ、そこを突いてきます。

「純資産1億円」が一つの目安

「うちはまだそんな規模じゃないから」と思っている社長も多いですが、自社株の問題が顕在化するのは相続や事業承継のタイミングです。そのとき初めて「株価がこんなに高かったのか」と気づいても、手遅れになることがあります。

目安として、純資産が1億円を超えてきたら、自社株評価を一度専門家と一緒に確認しておくことを強くおすすめします。評価額を把握していれば、生前贈与や持株会の活用など、打ち手の選択肢も広がります。

評価を「下げる」のではなく、「正確に把握した上で対策を取る」という順序が大切です。税務署に狙われるのは、評価を誤魔化そうとした会社ではなく、評価の根拠を説明できない会社です。

今期の決算が終わる前に、顧問税理士や相続専門の税理士に「うちの自社株、今いくらですか?」と聞いてみてください。その一言が、数年後の大きなリスクを防ぐことになるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。