先日、製造業を営む62歳の社長からこんな相談を受けました。
「そろそろ息子に会社を譲ろうと思って、自社株の評価額を調べたら2億円もあってね。税理士に相談したら贈与税が約4,000万円かかるって言われて、足がすくんじゃったよ」
気持ちはよくわかります。長年かけて育ててきた会社を次の世代に渡したいのに、そのタイミングで数千万円の税金が発生する。最悪の場合、会社の運転資金を削ってでも税金を払わなければならない事態になりかねません。
ただ、実はこの問題、うまく制度を活用すれば大幅に軽減できる可能性があります。それが「事業承継税制の特例措置」です。
贈与税・相続税が実質ゼロになる仕組み
事業承継税制とは、後継者が先代から自社株を受け継ぐ際にかかる贈与税や相続税を、一定の要件のもとで猶予してくれる制度です。通常の措置でも一定額が猶予されますが、2018年に創設された「特例措置」を使うと、なんと贈与税・相続税が最大100%猶予されます。
猶予というのは「後払い」ではなく、要件を満たし続ければ最終的に免除になる仕組みです。つまり実質的にゼロ。冒頭の社長で言えば、約4,000万円の贈与税が丸ごと消えるイメージです。
これは中小企業の事業継続を国が後押しするために設けられた制度で、非上場株式を対象としています。上場企業の社長には関係ありませんが、オーナー経営者にとっては見逃せない制度です。
使うために押さえておきたい3つのポイント
ただし、この特例措置には条件があります。感覚的につかんでもらうために、特に重要な点を3つ挙げておきます。
まず、2027年3月末までに「特例承継計画」を都道府県に提出すること。この計画書の提出がすべての始まりです。逆に言えば、ここさえ間に合えばその後の株式移転は2035年12月末まで猶予を受ける形で実行できます。「まだ先の話」と思っていると、あっという間に期限を過ぎます。
次に、後継者が承継後5年間は代表者として会社を継続すること。途中で代表を降りてしまったり、会社を売却したりすると、猶予されていた税金が一気に復活します。制度の趣旨が「事業の継続」にある以上、この要件は厳格に見られます。
そして、対象となる株式数や後継者の人数にも条件がある点です。特例措置では後継者が最大3名まで認められており、議決権株式の最大3分の2まで適用できます。先代1人・後継者1人というパターン以外にも対応しているのは、特例措置の大きな特徴です。
「うちには関係ない」と思っていませんか?
自社株の評価額が高い会社というのは、赤字続きの会社ではありません。むしろ、長年真面目に利益を積み上げてきた、財務的に健全な会社ほど評価額が高くなります。
製造業やサービス業、卸売業など、地道に内部留保を積んできた中小企業が対象になりやすいのはそのためです。「うちはそんな大した会社じゃないから」という社長ほど、一度しっかり評価額を確認してみてください。想定外の数字が出ることは珍しくありません。
また、「相続でいいや」と考えている方も要注意です。贈与税だけでなく相続税にも同じ特例措置が適用できますが、相続が発生してからでは計画の余裕がありません。元気なうちに動いておくのが鉄則です。
専門家への相談を早めに
事業承継税制は、節税効果が非常に大きい一方で、手続きや要件の管理が複雑です。計画書の作成には顧問税理士や事業承継の専門家が欠かせませんし、承継後も毎年の報告義務があります。
「制度があることは知っていたけど、結局動けなかった」という社長を何人も見てきました。2027年3月という期限は、一見まだ先に思えて、実際には余裕がありません。決算対応や日常業務の合間に計画書の準備をするとなると、1年近くかかることもあります。
後継者への承継を少しでも考えているなら、今期中に一度、専門家に相談してみることをおすすめします。4,000万円の話が、打ち合わせ1回分の相談料で動き出すかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。