先日、愛知県で製造業を営む70代の社長からこんな話を聞きました。
「息子に会社を渡したんだけど、引退してからも毎月30万円が会社から振り込まれてくるんだよ」
一瞬、「それって大丈夫なの?」と思いませんか。でも実は、これはきちんとした法的・税務的な根拠のある話なんです。今日はその仕組みをわかりやすくお伝えしたいと思います。
引退=収入ゼロ、は思い込みだった
多くの社長が事業承継を考えるとき、「会社を渡したら、あとは年金で生活するしかない」と思い込んでいます。でも、それは少しもったいない発想かもしれません。
長年会社を経営してきた社長には、数十年分の業界知識・人脈・経営判断力があります。これは後継者にとって、引き続き頼りにしたいかけがえない資産です。その「経験と知恵」を会社に提供し続ける対価として、正式に報酬を受け取る。それが顧問契約という設計です。
この田中社長(仮名)の場合、70歳で息子さんへ事業承継したあと、「経営アドバイザー」として会社と業務委託契約を締結しました。月30万円、年間にすると360万円の報酬が、今も会社から支払われています。
なぜこれが節税になるのか
ここで少し税務の話をさせてください。
会社が顧問料として支払う報酬は、適切な条件を満たせば**会社側の損金(経費)**として処理できます。つまり法人税の課税対象となる利益を、その分だけ減らせるわけです。
一方、受け取る側(田中社長)は個人としての報酬収入になります。役員報酬として在籍し続けるよりも、社会保険料の負担が軽くなるケースが多く、手取りベースで見たときの効率が良い場合があります。
会社も助かり、社長も助かる。まさに一石二鳥の設計です。
税務署に認められるための3つの条件
ただし、「引退後も報酬をもらいたいから顧問契約を結んだ」だけでは通りません。税務上の否認リスクを下げるために、必ず押さえておくべきポイントが3つあります。
まず一つ目は、業務内容を具体的に定めることです。「経営に関する助言」という抽象的な文言だけでは不十分です。「月2回の経営会議への出席」「既存取引先との関係維持・紹介業務」「新規事業の企画相談」など、何をどれくらいの頻度でやるのかを契約書に明記しましょう。
二つ目は、報酬が業務内容に対して過大でないことです。実態のない報酬は「隠れた利益処分」とみなされるリスクがあります。月30万円という金額が妥当かどうかは、業務の質・量・業界相場を考慮したうえで設定する必要があります。
三つ目が、契約書をきちんと整備すること。口頭での合意では税務調査の場で説明に窮します。業務委託契約書を作成し、双方が署名押印した書面を保管しておくことが必須です。議事録や業務報告書も残しておけると、さらに安心です。
後継者にとってもメリットがある
税務的な話ばかりしましたが、この設計には経営上のメリットもあります。
事業承継直後は、後継者にとって不安だらけです。取引先との関係、社員のモチベーション、突発的な経営判断——そういったときに、経験豊富な先代がそばにいてくれるのは大きな心強さになります。
田中社長の場合、長年かけて築いた業界内の人脈が、息子さんの経営にいまも活きているそうです。「完全引退」ではなく「段階的な移行」という形にしたことで、会社の安定承継にもつながったと話してくれました。
やるなら早めに設計を
顧問契約の設計は、引退の直前に慌てて考えるものではありません。理想を言えば、承継の2〜3年前から報酬水準・業務内容・契約形態を顧問税理士と一緒に組み立てておくのがベストです。
「引退後の収入なんてまだ先の話」と思っている社長ほど、気づいたときには選択肢が狭まっていることがあります。事業承継を視野に入れ始めたタイミングで、自分の「出口設計」も同時に考えてみてください。
月30万円が10年続けば3,600万円。これは決して小さくない数字です。きちんとした設計と契約書があれば、堂々と受け取れるお金です。まだ顧問契約の仕組みを検討したことがないなら、まず顧問税理士に「自分の場合はどう設計できるか」を相談してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。