先日、東京で製造業を営むAさん(50代・一人暮らし)からこんな相談を受けました。

「毎月20万円の家賃を自分の報酬から払ってるんですが、なんか損してる気がして…」

感覚は正解です。実はこの「自分で家賃を払う」という行動、税務的にはかなりもったいない選択なんです。


家賃を「自分で払う」と何が起きるか

役員報酬から家賃を払うということは、税金や社会保険料が引かれた「手取り」のお金で家賃を負担しているということです。

月収100万円の社長が月20万円の家賃を払う場合、実際には所得税・住民税・社会保険料を合計すると、手取りは65〜70万円程度になっているケースが多いです。つまり、20万円の家賃を払うために、額面ベースでは30万円近い報酬が必要になっている計算になります。

これが「役員社宅」を使うと、構造がガラリと変わります。


役員社宅の仕組み、シンプルに説明します

やることはシンプルで、会社が物件を借りて、それを社長に社宅として貸す、ただそれだけです。

税法上、役員が会社から社宅を借りる場合、役員が負担すべき賃料は「賃料相当額」として計算式が定められています。この計算式に基づくと、負担割合は実際の家賃の10〜20%程度になることが多いです。

つまり、月20万円の家賃なら、Aさんが会社に払う賃料は月2〜4万円程度。残りの16〜18万円は会社の経費として処理できます。


手取りが年60万円以上増える理由

Aさんのケースで試算してみましょう。

以前は月20万円を手取りから払っていました。役員社宅に切り替えると、自己負担は月約4万円(賃料の20%)になります。差額は月16万円。

ただし、単純に「16万円×12ヶ月=192万円得した」というわけではありません。仕組みはもう少し丁寧に見る必要があります。

会社が16万円を経費にすることで法人税が下がり、さらにAさんの報酬から払う家賃が減ることで所得税・住民税の課税対象も圧縮されます。この二重の節税効果が重なって、手取りベースで年間60万円以上のプラスが生まれるのです。

「役員報酬を上げる」のではなく、「報酬以外の形で価値を受け取る」という発想の転換が、この手取り増の核心です。


「賃料相当額」の計算は自己判断NG

ここで一点、強調しておきたいことがあります。

賃料相当額の計算式は、税法で厳密に定められています。建物の固定資産税評価額や床面積、構造(木造か鉄骨か)などをもとに算出する必要があり、「だいたい20%でいいか」という自己判断は税務リスクを生む可能性があります。

計算が間違っていると、本来経費にできない金額まで経費計上してしまう「現物給与の漏れ」として指摘を受けるケースもあります。実行前に必ず顧問税理士と一緒に計算を確認してください。

また、社宅として認められるためには、会社が賃貸借契約の当事者になっていること(名義が会社であること)が前提です。社長個人が契約した物件を後から「社宅にする」ことはできませんので、この点も注意が必要です。


こんな社長に特に効果が出やすい

役員社宅の節税効果は、次のような状況にある社長ほど大きくなります。

  • 月10万円以上の家賃を役員報酬から払っている
  • 役員報酬が高く、所得税・住民税の実効税率が高い
  • 現在の賃貸物件の契約更新や引越しを控えている

逆に、すでに自宅を購入している場合や、社宅として使える物件の選定がむずかしい地方在住の場合は、効果が限定的になることもあります。自社の状況に合わせて検討してみてください。


報酬設計の「見直し」として捉える

役員社宅は、単なる節税テクニックではなく、報酬設計の見直しという文脈で捉えると長期的に効果を発揮します。

役員報酬の金額を変えずに、受け取り方を変えるだけで手取りが増える。これは法人・個人の両側で税負担を最適化できる、数少ない合法的な手法のひとつです。

「報酬を上げるより先に、今の報酬を最大限受け取れているか」を確認する。これが、賢い社長の報酬設計の第一歩だと私は思っています。

もし今、賃貸物件に住んでいて役員社宅をまだ活用していないなら、次の顧問税理士との打ち合わせで必ず議題に上げてみてください。今期中に契約を切り替えるだけで、来年の確定申告が少し楽しみになるはずです。


※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。