先日、創業30年の印刷会社を経営する60代の社長から、こんな相談を受けました。
「子どもは東京でサラリーマンをしていて、会社を継ぐ気はない。もう廃業するしかないかな…」
こういった相談、最近とても増えています。でも私はいつも同じことをお伝えします。「廃業は、一番もったいない選択肢かもしれませんよ」と。
後継者がいないことと、会社をたたむことは、イコールではありません。今の時代、選択肢はちゃんとあります。今回はその中から、特に使えると思う3つの出口戦略をご紹介します。
第3位:長年の幹部に引き継ぐ「従業員承継」
最初に思い浮かぶのが、長年一緒に仕事をしてきた幹部社員への承継です。「でも、うちの幹部にそんな資金力はないよ」という声もよく聞きます。
ここで知っておいてほしいのが、会社が株式の買取資金を幹部に貸し付けることができるという点です。要するに、社長が直接お金を用意しなくてもいいし、幹部もゼロから数千万円を工面する必要がない。会社のお金をうまく活用することで、現実的なスキームが組めます。
もちろん、貸付には金利や返済計画の設定など、税務上の注意点もあります。ただ、「従業員承継なんて夢物語」と最初から諦めるのは早すぎます。身近なところに答えがある場合も多いんです。
第2位:売上1億以下でも成立する「M&A売却」
M&Aというと、「大企業の話でしょ?」と思われがちです。でも、今はまったく違います。
マッチングサービスの普及によって、年商1億円以下の中小企業でも成約件数が急増しています。数百万円から数千万円で会社を売却できたケースも珍しくありません。廃業する場合、設備や在庫を処分して残るのはほぼゼロ、という現実と比べると、その差は歴然です。
「うちなんて買い手がいるわけない」と感じる社長ほど、実は一度査定してみると驚くことがあります。地域に根付いた顧客リストや、熟練スタッフの技術、長年のブランド力——これらは買い手にとって大きな価値を持ちます。
M&Aには仲介手数料や手続きの手間もかかりますが、廃業コストと比較すれば検討する価値は十分にあります。まずは「自社にどれくらいの価値があるか」を知ることから始めてみてください。
第1位:支配権は残しつつ経営を任せる「持株会社+信託スキーム」
個人的に一番おもしろいと思っているのが、この「持株会社+信託スキーム」の組み合わせです。
シンプルに言うと、「会社を支配する権利だけ手元に残しつつ、実際の経営はプロに任せる」という仕組みです。社長が現場から引退した後も、会社の利益は持株会社を通じて手元に入ってきます。
さらに、信託を組み合わせることで相続対策にもなります。自社株の相続は、何も対策しないでいると想定外の税負担が発生することも多い。持株会社と信託を活用すれば、次世代への資産移転をコントロールしながら、自分が生きている間も経済的な恩恵を受け続けられます。
ただし、このスキームは設計が複雑なため、信頼できる税理士や弁護士との連携が必須です。「なんとなく聞いたことがある」レベルで動くと、かえってトラブルになることもあるので要注意。専門家への相談を前提に、選択肢の一つとして頭に入れておいてください。
廃業を決める前に、必ず「見積もり」を取ってほしい
今回ご紹介した3つの方法に共通しているのは、「廃業よりも社長にとっての手残りが多い可能性が高い」という点です。
廃業は一見シンプルに見えますが、実際には原状回復費用、在庫処分、従業員への退職金、各種契約の解除費用など、意外とコストがかかります。それを払い終えた後に手元に残るお金と、M&Aや承継を活用した場合の手残りを比べたとき、「もっと早く動けばよかった」と後悔する社長も少なくありません。
後継者がいないという現実は変わらないかもしれません。でも、その先の選択肢は、思っているよりずっと広いはずです。
まだ出口戦略を何も考えていないなら、60歳を迎える前——できれば55歳くらいのタイミングで、一度専門家に相談しておくのがおすすめです。動き出すのが早いほど、選べる選択肢が増えます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。