先日、顧問先の社長からこんな連絡が来ました。「退職金を払ったのに、全額否認されそうだと税務調査で言われています……」。
創業から20年以上会社を支えてきた役員への退職金。金額にして2,000万円。それが一瞬で損金として認められなくなるかもしれない、という話です。原因を聞いてみると、議事録の書き方にありました。内容が間違っていたわけじゃない。でも「書き方」のせいで、税務署に後付けとみなされてしまったんです。
役員退職金は、正しく処理すれば会社の大きな節税手段になります。ただし、議事録の形式や内容に一つでも落ち度があると、損金算入が丸ごと否定されるリスクがある。今回は、実際によくある議事録のミスを3つ、重要度の高い順にお伝えします。
第3位:支給日を「なるべく早く」と書いてしまう
議事録に「速やかに支給する」「なるべく早く払う」と記載しているケースが意外と多いです。気持ちはわかるんですが、税務署の目線ではこれがアウトになります。
損金算入が認められるのは、原則として「支給が確定した事業年度」です。支給日が曖昧なままでは「いつ確定したか」が証明できず、期ズレや否認の口実を与えてしまいます。議事録には必ず「令和○年○月○日に支給する」と、具体的な日付を入れてください。たった一行の違いで、税務調査の結果が変わります。
第2位:金額の計算根拠を書いていない
「退職金として金○○円を支給する」とだけ書いてある議事録も要注意です。金額そのものは書いてある。でも「なぜその金額なのか」の根拠がなければ、税務署から「過大退職金では?」と指摘される可能性があります。
役員退職金の妥当性を示す方法として広く使われているのが、功績倍率法という計算式です。「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」で算出するもので、同業他社の功績倍率と比較しながら金額を設定します。たとえば月額報酬80万円、勤続25年、功績倍率3.0であれば、80万円×25年×3.0=6,000万円という計算になります。
この計算式と各数値を議事録に明記しておくことで、「恣意的に決めた金額ではない」という証拠になります。金額だけ書いて根拠を省略するのは、節税効果をみずから捨てるようなものです。
第1位:退職後に議事録を作っている
これが一番危険です。退職金の支給を決議するのは、必ず退職前でなければなりません。
退職後に株主総会や取締役会を開いて「さかのぼって退職金を決めた」という形になると、税務署からは「後付けで作った書類では?」と判断されます。実際、退職後に議事録を整えたケースで、退職金の損金算入を全額否認された事例は珍しくありません。
「退職のタイミングでバタバタしていて……」というのはよくある話ですが、税務上の手続きは感情論では動きません。退職の意向が固まった段階で、早めに税理士と連携して株主総会や取締役会の日程を確保しておくことが大切です。退職の1〜2ヶ月前には動き始めるのが理想です。
議事録は「形式」ではなく「証拠」だと思ってほしい
多くの社長が議事録を「法律上必要な形式的な書類」として扱っています。でも税務署にとっては、議事録は「その意思決定が本当に適切に行われたか」を判断する証拠書類です。
役員退職金は金額が大きいぶん、税務調査でも必ずと言っていいほどチェックされます。支給日の明記、功績倍率法による計算根拠、そして退職前の決議。この3点が揃っていれば、かなりの確度で損金算入を守ることができます。
近々、役員の退職を予定しているなら、今すぐ顧問税理士に「議事録の内容を一緒に確認したい」と連絡してみてください。後から修正が効かないのが、退職金の怖いところです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。