先日、20年以上経営してきた会社を畳もうとしている社長から、こんな連絡がありました。

「司法書士に清算の手続きをお願いしたんですが、税金ってそんなにかかるんですか?」

その時点で、すでに解散の決議を終えていました。本来であれば清算前にやっておくべき「ある対策」を打つには、タイミングとして非常に難しい状況になっていたのです。

会社を畳む時に、税金で大損している社長は本当に多い。今日はその話をしたいと思います。

「ただ手続きする」だけで、資産が二重に削られる

会社を解散・清算するとき、多くの社長が「とりあえず手続きを進めよう」と考えます。それ自体は間違いではないのですが、何も対策をしないまま清算を進めると、残った財産に対して最大約35%の法人税等が課税されます。

それだけではありません。法人税を払った後に残った財産を株主(多くの場合、社長自身)に分配するとき、今度は約20%の個人課税がかかってきます。

一度法人で税金を払い、さらに個人でも払う。この二重課税の構造に気づいていない社長が、非常に多いのです。5,000万円の残余財産があったとして、手元に残る金額がいくらになるか。少し計算してみるだけで、背筋が冷えるはずです。

清算前に「退職金」を打つのが鉄則

では、知っている社長は何をするのか。答えはシンプルで、清算前に役員退職金を支給することです。

役員退職金は、適切な金額であれば全額を損金に算入できます。つまり、法人の課税所得を大きく引き下げることができる。退職金を支給することで法人税の負担を圧縮し、その分だけ会社に残る財産(=後で二重課税される財産)を減らせるわけです。

仮に退職金として2,000万円を支給した場合、法人税率をざっくり35%で計算すると、約700万円の法人税圧縮効果が生まれます。これだけでも十分インパクトがありますが、話はここで終わりません。

受け取る側も「退職所得控除」でお得になる

退職金が節税になるのは、法人側だけではありません。受け取る社長(個人)の側にも、大きなメリットがあります。

退職金には「退職所得控除」という制度があり、勤続年数に応じて非課税枠が設けられています。勤続20年超の場合、控除額は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で計算されます。たとえば30年経営してきた社長であれば、1,500万円もの控除が受けられる計算になります。

さらに、控除後の金額は2分の1に圧縮してから課税されるという優遇措置もあります。給与や事業所得と比べると、税負担がかなり軽い。つまり退職金は、法人側でも個人側でも税務上有利な「二重のメリット」を持つ手段なのです。

致命的なのは「順番を間違える」こと

ここで最も強調したいのは、退職金の支給は清算の手続きに入る前に行う必要があるということです。

解散決議後にも退職金の支給は技術的には可能ですが、清算手続きが進んでしまうと債権者への弁済や財産の換価が優先されるため、動かせる財産が限られてくることがあります。また、清算人としての業務に対する報酬と、代表取締役としての退職金では性質が異なります。

「手続きを始めてから相談しよう」と考えていると、最も効果的な対策を打てるウィンドウを閉じてしまうことになりかねません。これが、冒頭の社長のケースで起きていたことです。

清算を考え始めた段階で、できるだけ早く税理士に相談する。それだけで、手元に残る金額が数百万円単位で変わってきます。

退職金の「適正額」には根拠が必要

一点、注意しておきたいことがあります。役員退職金は「功績倍率法」などを用いて、税務上の適正額を算定する必要があります。根拠なく高額な退職金を設定すると、税務調査で一部が否認されるリスクがあります。

最終月額報酬×勤続年数×功績倍率(通常2〜3倍程度)という計算式が一般的ですが、業種・規模・役割によって合理的な数字は変わります。「なんとなくこのくらい」ではなく、きちんとした根拠を持った数字を設定することが重要です。

この点も含めて、清算を検討しているのであれば税理士への相談はできるだけ早いタイミングで行うことをおすすめします。特に、決算期や手続き着手の半年〜1年前に動けると、対策の選択肢が大きく広がります。

20年・30年と積み上げてきた会社を畳む時に、最後の最後で税金に持っていかれる金額を最小化する。それが、社長としての「出口戦略」の仕上げです。まだ何も動いていないなら、今すぐ顧問税理士に「清算を考えているんですが」と一言伝えるところから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。