先日、不動産を多く持つ60代の社長からこんな相談を受けました。

「親の相続が終わって申告も済んだんだけど、後から税理士に『あの特例、使えたのに』って言われて……もう手遅れなんだよね」

相続税の申告は原則として10ヶ月以内。期限を過ぎてから「実はあの制度が使えました」と気づいても、取り返しがつかないケースが多いのです。

今回は、土地の相続で社長が陥りがちな3つのミスと、「小規模宅地等の特例」をきちんと活かすための考え方をお伝えします。


ミス3位:特例の存在そのものを知らない

「小規模宅地等の特例」という言葉、聞いたことはありますか? 自宅や事業用として使っている土地を相続した場合、一定の要件を満たせば評価額を最大80%も下げられる制度です。

80%減というのは、相続税の世界では破格の数字です。たとえば、路線価ベースで1億円と評価された自宅の土地なら、特例を使うことで2,000万円の評価として申告できる可能性があります。相続税の税率にもよりますが、数百万円から数千万円単位の節税になることも珍しくありません。

特に自宅については330㎡まで、事業用の土地については400㎡まで対象になります(貸付事業用は200㎡・50%減と要件が異なります)。都市部の自宅であれば、この330㎡という枠に収まるケースは非常に多く、活用できる可能性はかなり高いと言えます。

にもかかわらず、「そんな制度があるとは知らなかった」という理由だけで、数千万円を余分に納税してしまっている社長が実際にいます。知っているか知らないかで、これほどの差がつくのが相続の怖いところです。


ミス2位:要件を外して「一発アウト」になる

特例の存在を知っていても、要件を満たせなければ適用はゼロです。これが意外と多いミスの2位です。

自宅用の土地(特定居住用宅地等)であれば、「配偶者が相続する」または「同居していた親族が相続し、申告期限まで住み続ける」といった条件が求められます。子供が独立して別に暮らしていると、原則として適用できません(一定の「家なき子特例」はありますが要件が厳しくなっています)。

事業用の土地(特定事業用宅地等)については、相続した人が申告期限まで事業を継続していることが必要です。「相続後すぐに売るつもり」「誰も事業を引き継がない」という場合は、特例が使えなくなります。

つまり、特例を活かすためには、相続が起きてから動くのでは遅いのです。誰が土地を引き継ぐか、相続後もそこに住み続けるか、事業をどう継続するか——これらを生前から家族で話し合っておくことが、特例の「使える・使えない」を決定的に左右します。


ミス1位:事業承継と土地承継を別で考えている

ここが、経営者にとって最も見落としやすいポイントです。

会社経営をしている社長の中には、会社の事業に使っている土地を「個人名義」のまま保有しているケースが多くあります。会社には土地を貸しているという形です。この場合、相続の場面で「誰が土地を受け取るか」と「誰が事業を承継するか」が噛み合っていないと、特例が適用できなくなる危険があります。

特定同族会社事業用宅地等の特例を使うためには、その土地を相続した人が申告期限において会社の役員であることなど、細かな要件を満たす必要があります。土地は長男、会社は次男、というような分け方をしてしまうと、特例の適用が難しくなる場合があるのです。

「土地は相続税の問題」「事業承継は別の話」と切り離して考えていると、両方の計画が中途半端になりがちです。土地の相続と事業承継は、セットで設計するものと考えてください。


今すぐ確認してほしいこと

ここまで読んで、「うちは大丈夫かな」と不安になった社長は、まず以下の3点を確認してみてください。

  • 親や自分が個人名義で持っている土地の用途と面積
  • 相続人(子・配偶者など)の現在の住まいと、会社への関与状況
  • 事業承継の計画と、土地の承継先が一致しているか

これらをもとに、相続に詳しい税理士と一度シミュレーションしておくことを強くおすすめします。特例が使えるかどうかは、ケースによって判断が分かれる部分も多く、「たぶん使えるだろう」という感覚で進めると痛い目を見ることがあります。

相続は、準備した人だけが得をする世界です。今期中に一度、自社と自宅の土地について整理しておく時間を作ってみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。