先日、都内で不動産賃貸業を営む60代の社長とお話しする機会がありました。資産は十分に積み上げてきた。でも「相続のこと、正直まだ何もやっていない」とおっしゃっていて、少し驚きました。

決して珍しいことではありません。日々の経営で頭がいっぱいの社長ほど、自分の相続対策は後回しになりがちです。でも実は、今すぐ使える「合法的な節税の枠」が、生命保険にはあるんです。

「保険金には相続税がかかる」は半分だけ正しい

生命保険の死亡保険金は、相続財産とはみなされません。正確には「みなし相続財産」として課税対象になります。ここまでは多くの方がご存知です。

ただし、非課税枠が存在するという事実は、意外と知られていません。

相続税法では「500万円 × 法定相続人の数」までの死亡保険金は、相続税の計算上、完全に課税対象から外れます。現金や不動産と違い、保険金として受け取れば、この金額分だけ「なかったこと」にできるんです。

法定相続人の数で、非課税枠は大きく変わる

具体的に数字で考えてみましょう。

法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、非課税枠は「500万円 × 3人 = 1,500万円」。現金で1,500万円を残せば相続税の対象になりますが、保険金で残せばゼロ円になるわけです。

法定相続人が4人いれば2,000万円、5人なら2,500万円。家族構成によっては、それだけで相続税が数百万円単位で変わってきます。

「たかが保険」と思っていた方も、この数字を見ると印象が変わるのではないでしょうか。

現金で残すより保険で残す方がお得な理由

社長の手元に現金が1,500万円あるとします。そのまま相続すれば、その金額に応じた相続税がかかります。

一方、その1,500万円を原資に生命保険に加入しておけば、受け取った保険金は非課税枠の範囲内で課税されない。同じ金額でも、「現金」か「保険金」かによって、手取りが変わってしまうんです。

もちろん保険には保険料のコストや、解約時の返戻率の問題もありますので、単純比較はできません。でも「非課税枠を最大限活用する」という発想は、相続対策の基本中の基本として押さえておく価値があります。

この枠を使わないまま亡くなる社長が多い

税理士の間でよく言われることですが、せっかくの非課税枠を「知らなかった」「面倒で後回しにしていた」という理由だけで使わずに亡くなる方が、本当に多いんです。

特に資産を持つ経営者の場合、相続財産の規模が大きくなりやすい分、非課税枠のインパクトも大きくなります。1,500万円が課税対象から外れるかどうかは、税率によっては数百万円の差になることも珍しくありません。

準備するのに難しい手続きは必要ありません。基本的には、被相続人(社長本人)が契約者・被保険者となる終身保険や養老保険に加入し、受取人を相続人にしておく。それだけです。

注意点もしっかり押さえておく

ただし、いくつかの落とし穴にも注意が必要です。

まず、非課税枠が使えるのは「相続人が受け取った保険金」に限られます。相続放棄した人が受け取った保険金は、この非課税枠の対象外になるので要注意です。

また、受取人の指定は「相続人」にしておくことが大前提。誤って相続人以外を受取人にしてしまうと、非課税の恩恵を受けられなくなります。

さらに、保険の種類や契約内容によっては、意図した効果が出ないケースもあります。既存の保険契約がある方は、受取人の設定や契約形態を今一度、専門家と一緒に確認することをおすすめします。

今期中に、一度だけ確認してみてください

相続対策は「いつかやろう」と思っているうちに、タイミングを逃すことがあります。生命保険の非課税枠は、加入するだけで使える非常にシンプルな節税策です。

まだ活用していないなら、今すぐ法定相続人の人数を確認して、非課税枠の上限を計算してみてください。その一歩が、数百万円の差につながるかもしれません。

担当の税理士や生命保険の専門家に「非課税枠、使い切れていますか?」と聞いてみるだけでいい。それだけのことです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。