先日、こんな相談を受けました。

「長男に会社を継がせたつもりだったのに、次男と株のことで揉めてしまって…」

製造業を30年営んできた60代の社長のひと言です。先代からの苦労を引き継ぎ、ここまで育ててきた会社が、相続をきっかけに家族間の争いの場になってしまった。聞いているだけで胸が痛くなりました。

そして、こういうケースには共通点があります。それが「株式の分散放置」という問題です。

後継者が60%しか持っていない、その怖さ

多くのオーナー社長が、なんとなく株を分けたまま何年も経過させています。たとえば、長男60%・次男20%・奥様20%という構成は、一見バランスよく見えます。でも経営の現場では、これが深刻なリスクになります。

会社の重要な意思決定には「株主総会の特別決議」が必要なものが多くあります。定款変更、合併、会社分割、事業の全部譲渡など、会社の根幹に関わる案件がこれにあたります。そして特別決議の可決には、議決権の3分の2以上、つまり67%超の賛成が必要です。

長男が60%しか持っていない場合、単独では特別決議を通せません。次男や奥様の同意が常に必要になります。関係が良好なうちは問題ないかもしれませんが、何かのきっかけで対立が生まれたとき、会社の意思決定が完全に止まってしまうのです。

10年後、見知らぬ人が株主になるシナリオ

さらに怖いのは、株式の拡散が時間とともに加速するという点です。

今は「家族内」で収まっている株式も、相続が起きるたびに持ち主が増えていきます。次男が亡くなれば、その株はまた次男の子どもたちへ。奥様の株も、やがて別の親族へと渡っていきます。

10年後、20年後には、後継者である長男がほとんど面識のない親族と株主総会を開かなければいけない…という状況が現実に起きています。しかもそういった株主は、会社の経営には関心がなく、配当だけを求めてくることも少なくありません。

今は穏やかな家族関係でも、「株の設計を放置する」という選択が、将来の火種を育てていることを知っておいてください。

理想の設計は「後継者に67%超」を集める

では、どうすればいいか。答えはシンプルです。後継者に議決権の3分の2超を集中させることです。

これができれば、後継者は株主総会の特別決議を単独で可決できます。経営判断のたびに他の株主を説得する必要がなくなり、スピード感を持って会社を動かせます。事業承継後の「経営の安定」に直結する、最も重要な設計です。

残りの株式をどう集約するか、という点では相続時精算課税制度の活用が有効な手段のひとつです。生前に株式を贈与しながら、相続時に精算する仕組みで、計画的に後継者へ株を移していけます。また、自社株の評価を下げる対策(純資産の圧縮や利益調整など)を組み合わせると、贈与税・相続税の負担を抑えながら進めることができます。

ただし、これは一度にまとめてやるものではありません。毎年少しずつ、時間をかけて集約していくことが鉄則です。

今すぐ株主名簿を開いてみてください

「うちは大丈夫」と思っている社長ほど、実は株主名簿をここ数年見ていないケースが多いです。

確認してほしいのは、以下の3点です。

  • 後継者の持株比率は67%を超えているか
  • 現在の株主は全員把握できているか(故人のままになっていないか)
  • 相続などで株が分散するリスクはないか

特に、故人の名義のまま放置されている株式は、法的な処理が複雑になるため早急な対応が必要です。

親族承継は「気持ちの問題」だと思われがちですが、実際には「株式設計の問題」であることがほとんどです。後継者を決めただけでは、承継は完成していません。株の設計が整って初めて、経営の引き継ぎが完成します。

まだ株主名簿を確認していないなら、今月中に一度開いてみてください。そして現状が不安な場合は、専門家に相談するタイミングとして「今」が最もコストが低いはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。